呪いの少女 3

「え? 何!? 何がおこったの!? 先生不安!」


「く、ククク……我が闇の力が強力すぎて」


「ふざけてる場合じゃないヨー!!」


「すみません」


「普通に停電だろぉ?」




 唯一ニックだけが冷静である。


 いや、おかしい。魔石灯は個々がそれぞれの動力源を持って稼働している。それなのに教室中の魔石灯が一気に消えるのは偶然とは考えられない。明らかに何か恣意的な力が働いている。




「あ、そうだ! おい、停電だからよお! 今日の授業無くしてみんなで帰ろうぜえ!」




 ニックは嬉々として声を上げる。こんな時にもブレずにサボる事を考えられるのは羨ましい。俺なんかそのニックの腕に抱き付くだけで何も出来なかった。ちなみに反対側には紅花とメランドリ先生がいる。






「何だオメエら怖えのか?! 俺が居っから心配すんな! ガハハ!」




 やだ、たくましい。こんな時、頼りになるのは一番腕っぷしの強いニックである。


 ガシャン、と甲高い音が響いた。




 たちまち教室内はパニックになる。女二人の悲鳴が響く。俺は白目を剥いてニックの腹筋を触っていただけなのでセーフ。




 最初は窓が割れたのかと思った。しかしどうやら音は教室の中の、それも後ろの方から響いたようだ。




 ふわりと部屋の明度が高くなっていき、教室が元の明るさに戻ってきた。




「お、停電終わったみてえだぜ! 無事に停電終わったからよお! 今日の授業はお開きにしてみんなで帰ろうぜえ!」




 この男はどうあっても早く帰りたいらしい。




「でもさっきの魂切たまぎるような音……ただ事とは思えぬぞ」




 俺は立ち上がり、恐る恐る後ろの方へ向かった。三人もついてくる。


 掃除用具入れが空いているのが目に入る。俺が教室に入った時は閉じていたはずだ。風が吹いているわけでもないのに、自然の力で開くとは考えづらかった。


 俺はさらに慎重に近づいていく。




「おぅわ!!!」




 俺はキャラも忘れて情けない声を上げた。机の影から、床に転がっている人形ひとがたの物が見えたからだ。女二人も気付いたらしく、甲高い悲鳴を上げ、その場にへたり込んでしまった。


 今にも泣き出しそうだ。




 俺たちが大声をあげても倒れた人は微動だにしない。もう手遅れなのだろうか。嘘だろ。さっきまで和やかに授業する流れだったのに。どうしてこんな事になる?




「い、医療魔法学部の者を、呼ばねば……」


「よく見ろ。人体模型だぜ」




 ニックはスタスタと近づいていき、倒れていた人をひょいと担ぎ上げた。その身体は魔石灯の光を反射し、テラテラと人工物の輝きを発している。確かに人間ではない。




 その人工物からは脳みそや内臓が剥き出しになっており、一つ欠けた眼球がこちらを不気味に睨んでいる。




「さっきの音はよお! これが倒れてきたんだろお! ガハハ! オメエら怖がり過ぎだぜ!」




 こんな時にめっちゃ声のデカいニック。




「し、しかし、そのような禍々しい物がこの教室にあるのはおかしいではないか!」


「いやだってこれ俺が持ってきたんだしよお!」




 は?


 怯え切っていた二人の女子の表情が(?)に変わっていく。俺も理解が追いついてない。




「どう言う、意味だ?」


「いや実はよお! 昨日校庭で旨そうなキノコが生えててよお!」


「それは食用の物だったのか?」


「知らねえ!」




 いやその時点でだいぶおかしい! 普通の人は謎のキノコを見てうまそうだとは思わない。何を見て旨そうだと思ったんだ。




「食うかどうか迷ったんだけどよお!」




 まず毒があるかどうかを確かめろよ!




「止めとくことにしたんだよお!」




 じゃあこの話のオチ何なんだよ!




「でもやっぱうまそうだから食う事にしたんだよお!」




 どっちなんだよ!




「で、五個生えてたからどんだけ食うか迷ったんだけどよお!」


「どうせ全て平らげたのであろう?」


「十個食っちまってよお!」




 残りの五個はどこから出てきた。


 ……これ何の話?




「おい待てニック。貴様。そこから人体模型をここに運んできた話とどう繋がるのだ……?」


「いや繋がんねえけど」




 じゃあ何でその話したんだよ!!






 結局、ニックがここに人体模型を運んできた理由は彼の口から語られる事はなかった。……こっちの方がよっぽどホラーである。


 それに魔石灯が一斉に消えた理由は今も分からないままだ。そう言えばニックが「ルナ・グレイプドール」の名前を出した直後から、怪奇現象は始まっていた。




 やはり、関係があるのだろうか。それとも俺の考えすぎなのか……?


 しかし後日、事態は思わぬ方向に転がっていくのだった。

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