すべては彼女の手のひらの上で
@uzura-king
第1話 はじまりの少女と試練の始まり
ある日の学校帰り、武術の鍛錬のため立ち寄った夕日が照らす河川敷で、俺はただならぬ気配を纏った美しい少女と出会った。
彼女は信じられないことに、空から舞い降りてきて、夕日と川を背に、俺をみつめ、歩み寄ってきた。
「ウソだろ!君、今空から!?」
驚きつつも彼女を頭から爪先まで観察してみる。
どうみても日本人にはみえない、小柄で、輝くような黄金の髪を左右で束ね、透き通るような白い肌、そして黒曜石のような瞳。
衣装はコスプレとも思える格好だ、胸元の開いたトップス、ヘソ出しにミニスカート、おまけにマントまで着けている。
それになにより目を引くのが普段みかけないような大きな胸。
そんな彼女が、すべてを見透かすような瞳で俺をみつめ、話し掛けてきた。
「キミは来賀瞬平だよね?、これからキミには試練を受けてもらうけど、いいかな?」
藪から棒にそんなことを言ってくる。
「いや、君何者だよ?!今空から下りてきたよな?、それになぜ俺の名前を知っている?、初対面のめちゃくちゃ怪しいヤツにいきなりそんなこと言われても困るんだけど?…」
「まあ細かいことは気にしないでさ、まずは話だけでも聞いてみてよ?」
なにが「細かいこと」だ!、けど、彼女が何者なのかが物凄く気になる。
「とりあえず君は何者だ?、君からただならぬ気配を感じるんだけど…」
「ワタシが何者なのかは追々話してあげるよ」
「すごく気になるな~…、ところで、その試練というのは?、俺も暇じゃないからさっさと終わるものだと助かるんだけど?」
俺は適当に返してみた。
「ん~、それは難しいかも、だってタイムリミットが1年だから、その1年をフルに使わなきゃ勿体ないよね!」
全くなにを言っているのかわからない。
「え?なにそれ?タイムリミットってなんだよ?、俺にだって生活や学校があるんだぜ?、留年なんてごめんだぞ、冗談はやめてくれ!」
と文句を言いながらも俺は内心興味も湧いてきていた、なにせ彼女の発する何かが気になるからだ。
「冗談に聞こえるかもしれないけどマジメな話だよ、…ま、その生活を守るための試練とでも思ってくれればいいよ」
「生活を守る?、それって何から守るんだ?意味がわからないぞ?」
中二病か?俺もアニメやゲームは割と好きだが、実際こういう人種をみるのははじめてだ。
「キミ、今失礼なこと考えてたね?、…と、それはともかくこれは冗談でも中二病でもなく、1年後この星である事件が起こるんだ、…ワタシが手を貸さなければこの星が滅びるくらいのね」
「なんで俺の考えてることがわかるんだよ?、てか地球が滅びる?ますますワケが分からないぞ!」
「じゃあちょっとだけみせてあげるよ」
そういいながら彼女が手のひらを俺の額にかざすと
「目を閉じて」
「え?ああ…」
言われるまま目を閉じる、すると頭の中に映像が流れ込んできた。
なんだ?この風景は…
それは映画やアニメでしかみたことのないような廃墟、荒れ果てた世界だった。
「もしかして、これが1年後の地球?、見覚えのある建物もみえたけど…」
「うん、正確には1年半後の景色だよ、…1年後起きる事件を退けないとそれから半年後にはその景色が現実になるんだ」
表情を変えず彼女はそう述べた。
「ちょっと待ってくれ!さっきの話だと俺が試練を乗り越えたらその未来を回避できるみたいな口ぶりだったけど、いくらなんでもあんな規模の出来事を、俺がどうこうしたところでどうにもできないだろ!?、それこそ全人類でなんとかしないと!」
「その全人類が足掻いた結果が、その映像なんだけどね、…さっき言ったけど、ワタシが介入しない未来がその映像なんだ」
さっきの映像が再び頭に浮かぶ、そしてひとつ気になったことを聞いてみる。
「あの荒れ果てた世界で人間は?いや生物はどうなってるんだ?」
「うん、その映像の時点で動物はほぼ死滅、植物が少し残っている程度かな」
にわかには信じられない話だが、彼女の存在感自体にその説得力があった。
なんなんだこの感じ…。
「ということは、俺はもちろん身近な人たちも?」
「うん。」
死ぬってことかよ!…、なんてこった、それじゃあいつも…
あいつだけはなにがなんでも守りたい!、いや、それじゃダメだ!なんとかして地球を守らないと!
いや待てよ、試練に乗れば守れるかもしれないのか?
「でもやっぱり俺が何かしたところであれをどうにかできるなんて到底思えない、君の試練がなんなのかは分からないけど、本当になんとかできるのか?」
「君、じゃなくて、メヴィね!、ワタシの名前は「メヴィ・スゥ」だよ」
そこではじめて彼女が名乗った。
「メヴィだな、わかった、あ、俺は来賀しゅ」
俺が名乗ろうとしたこころで、
「うん、知ってる、瞬平でしょ?、それと、なんとかできるかっていう質問の答えだけど。」
少し間を置いて彼女は、
「確実にその未来を回避できるよ!」
確信しているかのように告げた。
そして彼女が選択を迫る。
「さてどうする?、実質キミに拒否権はないと思うけど、試練を受けて未来を守るか、それとも滅びを待つか…」
いや、もはや選択肢じゃないだろ!、未だに信じられない話だが、もしその話が事実だったとしたら?、やるしかないだろ!
俺は腹を括り、
「分かった、その試練受けるよ」
それを聞いた彼女は微笑みながら、
「そうこなくっちゃね!」
重い話のはずだが、メヴィの反応は軽い。
「で、試練て何をすればいいんだ?、いやそもそも1年後に地球で何が起こるんだよ?」
「それじゃあとりあえず試練のための場所、君たちがいうところの異世界、正確には「地球ではない別の惑星」だけどね、そこに移動するよ。」
「異世界?いやちょっと、人の話聞いてます?」
「うん、そこらへんの話は移動してからね、
あともうすぐここに…ゴニョゴニョ」
「え?最後聞き取れなかった、なんだって?」
なにかを小声でごまかすメヴィ。
「それじゃ、いくよ~!」
彼女がそう言った瞬間体が何かに包まれるような感覚をおぼえる。
と、その時、
「瞬ちゃ~んっ!ここにいたんだね~!」
「この声は!」
よく知った声に振り返ると、1人の少女が河川敷の道をこちらへ向かって駆けてくる、黒髪ボブで制服姿の少女、幼馴染みの「刹那」だ。
「また来賀流の特訓?」
近づくにつれ速度を落とす刹那、俺の前に立つメヴィに目を移すと怪訝な表情で、
「瞬ちゃんその女の子は?ずいぶんとカワイイ子だけど、もしかしてナンパでもしてたの?」
少し膨れた顔で俺を睨みつける刹那。
一方メヴィは、そんな俺たちのやりとりを気にも留めず、
「それじゃいくよ!」
その直後、俺と刹那が同時に、
「え?」
驚きの声をあげる。
メヴィの言葉の後、視界が全く別な空間に切り変わったからだ。
夕日の河川敷だったはずが、暗闇が広がる森?、暗くてよく確認できないがそんな感じの景色だ。
「メヴィここはどこだ?!」
放心状態でその場に座り込む刹那を尻目に、俺は問い詰める。
「瞬平、キミ意外と冷静だね?」
「こういうのはアニメなんかで定番設定だからな、まあ内心ビビッてはいるけど、刹那がこんな状態じゃ俺が取り乱すわけにもいかないだろ」
俺は座り込んだままの刹那を指差す。
「ヒューヒュー、瞬ちゃんカッコいい~」
茶化すメヴィ、なんかムカつく。
「茶化すなよ!そもそもなんで刹那、こいつまで連れてきたんだ?!、ここは危険なところなんだろ?!」
怒気を含んだ口調でメヴィに詰め寄る。
メヴィは表情も変えずに、
「だからこそ、だよ、…彼女には最初から来てもらうつもりだったからね、キミの試練のサポート役としてね」
「なにっ!?、本人に確認もせずに勝手に巻き込むなよっ!」
「まあそんなに怒らないでよ、彼女が望めばもちろん帰してあげるよ、…でもそうはならないんじゃない?」
まさかこいつ、刹那の性格までわかっているのか?
その時、
「あ、瞬ちゃん?」
刹那が我に返り、
「一体なにが起こったの?瞬ちゃんここって?」
「俺にもわからない、これからこいつに聞こうと思っていたところさ」
メヴィを指差す。
「この子はさっきの?」
怪しむようにメヴィを見つめる刹那。
「ワタシはメヴィ・スゥ、よろしくね!刹那」
「メヴィ、メヴィちゃん、う~、あなたは瞬ちゃんとどういう関係ですか!?」
そこかよ!
俺は心の中でツッコミを入れる。
「ん~、ちょっと前に出会ったばかりかな?」
「そうなんだ~、よかった~」
ホッと胸を撫で下ろす刹那。
「刹那、さっきワタシと瞬平が話していたことだけど」
「うん、なんとなく聞こえてたよ、もちろん私は瞬ちゃんについて行くよ!」
なんの迷いもなくそう答える刹那。
「ちょっと待て!、これから1年は家に帰れないんだぞ?それでもいいのかよ?」
俺は強い口調で刹那に聞き返すが、刹那はジッと俺の目を見つめながら、
「瞬ちゃんといるよ!、私が瞬ちゃんを助けるんだから!」
刹那のヤツ、キュンとくることいいやがって、これじゃあなにも言い返せないだろ!
「分かったよ刹那、だけど絶対に自分から危険なことはしないでくれよ?、それにもし刹那になにかあれば絶対俺が守るからな!」
う~、我ながらハズイ台詞を…。
「うん!ありがとね瞬ちゃん!、…ところで瞬ちゃんはこれから何をするの?」
「そうだね、刹那にも話しておかないとね…」
メヴィは俺に説明した内容をそのまま刹那にも話し、
「それホントなの?!、う~、でもさっき一瞬で知らない場所に飛んできちゃったし~、?」
「刹那、飛んではいないと思うぞ?」
俺は頭を抱える刹那に軽くツッコミを入れる。
そして、刹那への説明が終わったところで、
「話を戻すが、ここはどこなんだ?」
「うん、ここは地球とは別の惑星、遠い昔に名前を失った星、そこのシュトラール王国という国の東の端あたりかな」
「いや、別の惑星って…、あの一瞬でどうやって移動したんだよ?つうかそもそもお前ホントに何者だよ?!」
「そこらへんはまだ、ヒ・ミ・ツ!」
微笑むメヴィ。
そこへ、隣にいる刹那が俺の耳元に顔を寄せると、
「ねえ瞬ちゃん、メヴィちゃんて、なんかこうスゴイっていうか、へんな子だよね?、でもなんかこの子がいるとすごく安心できるというか、なんか不思議な感じだよね!」
と耳打ちしてくる。
「だな」
曖昧な表現だが、それに関しては俺も同感だった。
それは、慈愛とも、または恐怖とも思える不思議な感覚、まったく真逆な感覚を同時に感じさせる存在なのだった。
「それじゃあ、気を取り直して、地球の未来のことと試練について話すよ」
やっと知りたかったことを教えてくれるらしい。
メヴィに促されるまま3人で地面に座ると、メヴィは手のひらから光の球を出すと俺たちの中心に放り、焚き火のように俺たちを照らした。
なるほど、照明か。
そして、俺と刹那は緊張しながらメヴィの言葉に耳を傾けるのだった。
メヴィの話によると、1年後の地球でこんなことが起こるらしい。
魔界から魔族、それも魔将と呼ばれる上位魔族が3体、生物、それも知能の高い生物を捕食するため地球を襲撃、特に人間を手当たりしだいに食い漁り、逃げる者や隠れる者がいれば建物を破壊し、土を掘り起こしてでも探し出し食らうらしい。
勿論、人類も反撃に出るが、近代兵器は全く歯が立たず、辛うじて生き残った者たちは、シェルターに避難し核兵器を乱発することになるが、結局それによって人類は自らを滅ぼしてしまう形となり、食糧が無くなった魔族たちは魔界へと戻っていったという。
そんな話を聞かされると、ますます俺になにかができるとは思えない、と考えながらも口には出さず、最後までメヴィの話に耳を傾けることしかできなかったのだった。
「ここまででなにか質問はあるかな?」
「じゃあ俺から一つ、…なぜわざわざ地球まで来て、人間を襲うんだ?
食べ物なら、その魔界にだってあるんじゃないのか?」
尤もな質問をぶつけてみる。
「それはね、魔界は今食糧不足になっていてね、そこまでなら魔族が飢餓で滅んで終わる話なんだけど、厄介なことに、空間接続や転移の術を魔族の長である「魔王」が身に付けてしまったんだ、…そうなると必然的に他の世界に食糧を求めることになるよね?、人間が狙われるのは、魔族が物理的な食事だけではなく、魂、精神、心、感情といったモノも欲していてね、それらは魔族の能力(ちから)を高める効果があるんだ、「ちから」をなによりも求める魔族にとっては相当なご馳走なわけだよ、…そこで真っ先に狙われるのが…」
「「人間」てわけか…」
俺はつぶやくように答えた。
「そういうことだね、…刹那は質問ないかな?」
刹那は少し考えてから、
「うんとね、話し合いとかで解決はできないのかな?」
「それは難しいかな、まず、魔王は「悪意」と「欲望」から生まれた存在で、他者を尊重するという思考を持ち合わせていない、魔王が生み出した魔族たちも一部を除いて魔王と同じ、話の通じる相手じゃない、そういう認識でいたほうがいいと思うよ」
「そうなんだ、なんか怖い…」
刹那が俺の手を握り締めてくる。
「ほかに質問はないかな?」
「その「一部」というのは?」
気になった台詞について聞いてみる。
「魔族には二種類あってね、
ひとつは、魔王の1滴の血から生み出される「血族(こども)」、もうひとつは、魔族以外の生物が魔王の血を取り込むことで魔族化し、能力と魔王の呪いを受けた「魔将」、血族は文字どおり魔王の体の一部だから、魔王の意のままに動き、魔将の大半は自らの意思で魔王に忠誠を誓い、血を受けた者たちなんだけど、中には自分の意思とは関係なく魔将に変えられた者もいるんだ」
「ならそいつらとは話が通じるんじゃないか?」
「うん、話せば通じるとは思う、けど、魔王の血の呪いに抗うことはできないから、結局魔王に従うしかないんだ」
「なんかかわいそう…、メヴィちゃん!その人たちは助けられないの?」
「刹那、そんな顔しないで、そのあたりはワタシがなんとかするから、ね?」
悲しそうな刹那にメヴィが笑顔で答える。
「ホント?」
メヴィが頷き返す。
「さて、それじゃあ時間もなくなってきたことだし、次は試練について、
とその前に!」
メヴィは立ち上がるとあぐらをかいている俺の背後に回る。
「まずは瞬平から…」
俺は振り向き、背後のメヴィの様子を伺う。
するとメヴィは、右手を胸の前まで上げると、上に向けた手のひらからピンポン玉ほどの光の球体が浮かび出てきた。
「これは瞬平を今よりずっと成長させるための力」
そう言うとメヴィは、光の球体を中心に手にひらを返し、俺の背中に向かってその球体を押し込んでくる。
「え?なにを!」
俺は慌てるが体がまったく動かない。
光の球体はそのまま俺の体の中に溶け込むように消えていった。
その瞬間、俺の身体(からだ)の中にとてつもない「何か」が広がっていくような感覚をおぼえた。
「これで瞬平の身体は、戦闘経験や死線を経ることで、ほぼ際限なく身体能力、肉体の強度が上がっていく、そして五感もそれに併せて最適化されていく」
おお~、バトル好きの俺にしてみればかなり嬉しい贈り物だ、まるで人気の少年マンガの設定のようだ。
「なるほど、その成長した力で魔族と戦え、と?」
「そゆこと、だからせいぜいがんばってね!」
適当に返事と応援の言葉を返すメヴィ。
「他人事みたいに…、メヴィは手伝ってくれないのかよ?」
「まあちょこちょこ手伝ってあげるつもりだけど、これはキミたちの試練だからね、未来を守るのはキミたち自身だってことを忘れないようにね!」
その口ぶりや今までみせてきた能力から、メヴィが地球人ではないのは確実だろうが、とりあえず手伝ってくれるのだから心強い。
「次は刹那の番だね」
メヴィは座っている刹那の前に回るとその場にしゃがみ、自分の胸の谷間に手を差し込むと何かを取り出す。
すると刹那が、
「うわ~、メヴィちゃんのおっぱいすごいね~、そんなところにモノが仕舞えるんだねぇ、すごいね瞬ちゃん!」
楽しそうに俺に同意を求めてくる。
「いやその…、てか脱線するなよ刹那」
俺は赤面しながら目を逸らし、誤魔化すように話を元に戻そうとする。
「あ!そうだったね!えへへ、メヴィちゃんそれは?」
刹那はメヴィが持っている青い石がはまったタリスマンらしきモノを指差す。
「これは治療に関する力を封じ込めたお守りでね、これを刹那にあげる」
「え~、ありがと~、すごくキレイだね!、これどうやって使うの?」
もの珍しそうに眺め、タリスマンを受け取りながら問いかける刹那。
「ちょっと試してみようか?」
メヴィがそう言いながら俺をみつめる。
「なんでそこで俺をみる?」
イヤな予感しかしない…。
「瞬平、立ち上がって右腕を前に出してくれるかな?」
「これでいいのか?、なにするつもりだ?」
言われるまま立ち上がり腕を前に出すと、メヴィがその腕に自らの右手の人差し指の先を当てると、肘から手首にかけて滑らせていった。
すると指が通過した部分から肉が裂け、血が噴き出していく。
俺は驚き、慌てながら、
「血がぁーっ!いてえーっ!なにするんだよっ?!」
刹那も慌てて近づき、
「瞬ちゃんだいじょうぶ?!、メヴィちゃんひどいよ~!」
慌てる俺たちの姿をみてもメヴィは顔色一つ変えずに、
「刹那いいかい?、瞬平の傷を治したかったら、そのタリスマンと瞬平を自分の心で繋ぐイメージで、傷に手のひらをかざして、治したいと念じてみて、さあやってみて!」
「え?う、うん」
刹那はメヴィに言われるままタリスマンを左手で握り、右手を俺の傷にかざし、目を閉じると、
「お願い!瞬ちゃんの傷を治して!」
するとタリスマンが光りだし、みるみる俺の傷はふさがっていった。
「マジかよ!」
俺が腕を確認すると、傷跡すら残っていなかった。
「刹那、よくできました!、はじめてにしては上出来だよ」
「えっへん!」
メヴィが褒めると嬉しそうに胸を張る刹那。
「でもホントに怪我を治せるんだね、ビックリだよ~」
手の中のタリスマンを首に掛ける刹那。
「その力も使えば使うほど成長するから覚えておいてね、それから自分自身の能力(ちから)を信じることも忘れないように!」
「メヴィちゃんホントにありがと~、これで私も瞬ちゃんを手伝えるよ~」
「次から次へと、ホントなんでもありだな、メヴィのやつ」
驚きと呆れの混じった感情で、俺はひとり呟くのだった。
「ちなみに瞬平、今の負傷と回復で身体の強度がいくらか上がったから、多少の無茶もいけると思うよ」
なるほど、そこまで計算済みの実験台か…。
「さて最後に、これからの話だけど…」
再びメヴィが腰を下ろしたので、俺たちもメヴィに向かいあう形で腰を下ろす。
「キミたちにはこれから、この星に現れる魔族を倒してほいいんだ」
なに?!この星にも魔族が?
「魔族って、1年後地球に現れるヤツらか?」
「いや、幸いそれらとは別の個体で、魔将ではなくそれよりもはるかに劣る血族だよ」
「そもそもそいつらの強さが未知数なんだが、今の俺でどこまで闘えるんだ?」
「あまり言いたくはないけど…、間違いなく殺されるね」
ごく冷静に答えるメヴィ。
「なっ!」
「そんなの闘っちゃダメだよ~!」
俺は驚き、刹那が止める。
「まあまあ、二人とも落ち着いてよ、あくまで今の瞬平では勝てないという話、だからこそ瞬平にはこれから成長してもらうわけさ」
今はメヴィを信じて強くなるしかないのか?。
「ちなみに現れる血族は7体。」
「7体?!
ムリムリ!そんなの俺一人で相手にできるわけない!」
狼狽する俺。
「安心して、「今回」は出現場所がバラバラみたいだから。」
「ふぅ、焦った~、それをはやく言ってくれ」
俺は胸をなでおろした。
「あっ!それと、この星にはキミたちの仲間になる子たちがいるから、まずはその一人と合流してもらうね」
「仲間?」
仲間か、それはすごく心強いがどんなヤツなんだろう。
「デイジーって子で、かなり強いよ~」
デイジーって子?名前から察するに女か?
「デイジーちゃんか~、会うのが楽しみだね!瞬ちゃん!」
刹那が嬉しそうだ。
「ここから西に向かうと街道に出るから、その道をさらに西に向かって進むと彼女に会えるはずだよ」
なんでそこまでわかる?
メヴィの正体がますます気になるのだが…。
「ちなみに西はあっちね、ちゃんと覚えておいてね」
メヴィの指差す方向に目をやる。
こんな森の中じゃ方角を覚えてられるか不安だ。
「ところで、さっきの口ぶりだとメヴィはいっしょに行かないのか?」
そう尋ねると、メヴィは人差し指を顎に添え空を仰ぎ、
「ワタシは用事があるからいったんここでお別れかな」
「え~っ、メヴィちゃんいっしょにきてくれないの~?」
刹那がガックリと項垂れる。
「まあ少しの間だからガマンしてね、刹那」
項垂れる刹那の頭をなでてやるメヴィ、すると刹那は顔を上げ、
「メヴィちゃん、また絶対会おうね!約束だよ!」
「もちろんだよ」
メヴィが優しげな笑顔で答えると、刹那もつられて微笑んだ。
この二人、出会って間もないのにやたらと仲良くなってやがるな。
「デイジーにはある程度事情を教えてあるから、そこからの行動は彼女に聞くといいよ」
そう言うと、メヴィは俺たちに背を向け、肩越しに笑顔をみせると、
「それじゃあまたね!ふたりとも」
手を振り、空中に浮き上がるとそのまま北東の方角に飛び去っていったのだった。
「やっぱり空飛べるのか!ホントなんでもありだな!」
「いまさらだけど、すごいよねメヴィちゃん、頼もしすぎるよ~」
俺たちは顔を見合わせたのだった。
「じゃあ俺たちも出発するか」
「うん、張り切って行こうね、瞬ちゃん!」
こうして俺たちは、メヴィの示した方角に歩き出すのだった。
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