俺の夢は不老不死
谷資
第1話
「ねぇ、夢斗の夢って何?」
「俺の夢?...不老不死になること」
俺こと
「不老不死って、そういうことじゃなくて...」
俺の夢を聞いてきておきながら、ため息とともにそう言ってくるのは俺の彼女、
「まぁ、考えてもみてくれよ。未来には何があって、何がないかがわかるんだぜ?これって、すごくロマンがあると思うんだ」
「私は至極どうでもいいことだと思うんだけど」
(...これが男のロマンってやつなのかな)
そんな風に孤独を感じながら、我が家へと歩を進める。
有奈がこんなことを聞いてくるのは、先生から進路を考えるように課題を出されたからであろう。
高校2年にもなると、だんだんとそういうことを聞かれるようになってきた。
「…私は有限な命がいいかな」
数分の間、沈黙の有奈は言った。
俺の夢にため息をつきつつも、自分なりに考えてくれたようだ。
俺は理由を聞いてみる。
「だって、その方が人生に輝きが出るじゃん!」
俺は納得ができなかったが、口に出さない。
家に着くと、明日のデートの確認をして別れる。日曜日デートってやつだ。
風呂に入って、夕食を食べて、明日の準備をして、ベットに転がって、明日は有奈がどんなに可愛いか、なんて考えながら眼を閉じる。
『2023年6月4日』
目覚まし時計に起こされた俺は、むくりと腰を起こし、洗面所に向かう。
事件は朝食作りの時に起きた。俺は包丁で食材を切っていたところ、指を豪快に切ってしまったのだ。それはいい...いや、よくないが。
問題は、被害指の人差し指のけがが何事もなかったかのように治ったことだ。
昨日の言動が脳裏によぎったが、まさか、と払拭する。
約束の時間が近づいているので、問題は後にし、急いで朝食を食べ、家を出る。
デートは楽しく終わった。
有奈はいつも通り可愛いかった。対象に俺は朝のことからか、すこし不調で、
「大丈夫?」
と、有奈が何度も聞いてきた。
有奈の家まで送り、別れると、今度は自分の帰宅のために道を蹴る。
すると、後ろから車が来て―——
「ドゴォオッ」
人と車が衝突した音とは思えない音が響く。
俺は空を舞う。
「あ、死んだ―—」
確信とともに地面叩きつけられる。
しかし―—、
「俺.......生きてる.............!?」
その時、俺は確信した。俺は不老不死になったのだと。
『2025年7月29日』
「花火、綺麗だねぇ~」
「あぁ、そうだな」
大学生となった俺と有奈は、花火大会に来ていた。
「この胸を叩くような花火の鼓動が、私たちは生きているって思わせない?」
「........そうだな」
「...ねぇ、夢斗。これからあと何回、一緒に見れるかな?」
俺は、たくさん、と答えた。
『2031年5月8日』
「俺と結婚してください!!」
「うん。こちらこそ。夢斗が死ぬまで離さないから。なんて」
「...あぁ!振り落とされるなよ!」
めちゃくちゃ嬉しかった。
『2091年11月4日』
「...あなた、昔から見た目が変わらないわね」
「ずっと前にアンチエイジングな治療を受けたからな」
「そうなの?教えてくれれば、私も受けたのに」
「おいおい、有限ってのはどうしたんだ?」
「........................」
...まだ、話の途中じゃないか...............。
『????年?月?日』
「おい、そこの兄ちゃん!なんで、つまらなそうな顔してるんだい?」
30代前後の男が、俺に近づいてきた。どうやら、俺の様子が気になったらしい。
「あぁ、心配かけてすまない。別に困ってはいないから安心してくれ」
「兄ちゃん...年上との話し方に気を付けたほうがいいぞ。...それにしても、本当に大丈夫か?相談に乗るぞ」
お節介なやつがきたな。なんて思い、ため息を吐く。
ふと、俺はある問いをかけたくなった。
「君は、昔ここに何があったか知ってるか?」
「確か、前は家電量販店があったか」
「その通り。その前は不動産屋。さらにその前はゲーセン。そしてさらにその前は学校」
「すげぇ、物知り博士だ」
「こんなことを知っても、仕方がないよ」
そう、仕方がない。通っている本屋がなくなったこと、遷都したこと、今の総理大臣、実はあの会社がしぶとく生き残っていること等々。あの時知りたかったことが知れている。でも、まったく色を感じない。刺激がない。
―—だって、その方が人生に輝きが出るじゃん!――
ふと、あの時の言葉を思い出す。今さら納得してしまうなんて。
でも、きっとこの渇きは......有奈がいないからだと思う。
昔の俺は有奈と、この景色が見たかったんだと、確信した。
「あぁ、また、君と話したい。会いたい」
++++++++++++++++++++
眼を開く。見たことのある天井。
「俺の部屋...?」
そう認識した俺は飛び起き、目覚まし時計を手に取る。23年6月4日と認識できる。
「夢だったのか...?」
確かに、俺の夢は不老不死になること、と言ったが、そういう意味じゃないんだよ...。
そうこうしていると今日が何の日か思い出し、家を飛び出す。約束の場所まで、走って、走って―—、俺は彼女を――有奈を見つける。俺は、彼女のもとに走り、強く抱きしめた。
「...奈...有奈ッ...!会いたかった...会いたかったよぉ!!」
ぽろぽろと涙を流す俺。有奈はそんな俺に驚いている。
「?昨日会ったばっかりだよ~?実は夢斗って、寂しがり屋なの?」
有奈はニヤニヤとしながら俺に問いかける。その言葉には、俺を和ませようとする優しさを感じた。
「そうなんだ。実は大の寂しがり屋なんだ...。だから、有奈のこと絶対に離さない!君が死ぬまでずっと」
まさかの言葉に虚をつかれつつ赤面する有奈。やっぱり
「さ、ッ...さぁ、はやくデートに行こう!」
涙声の俺は精一杯に彼女を誘う。
有奈とともに、限られた時間を楽しむために。
俺の夢は不老不死 谷資 @tanishi70
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