人格統合

ボウガ

第1話

 少女は幾度も幾度も夢をみた。幼いころ、イマジナリー・フレンドの男Bを心の中つくったら、二重人格になり、どっちの人格も大事なものになってしまっていた。


 困ったのは親のほうだ。少女はもうすぐ18になるというのに、人と関わることがうまくいかないし、時折人格がコロコロ入れ替わって一人で二役演じることさえもある。


 少女は、両親に説得されて、カウンセリングをうけることに、なぜなら両親は泣いて説得したし、少女も両親を愛していたからだ。両親が思い悩んでいるのをしって、少女もいてもたってもいられなくなる。しかし、幾度もカウンセリングを、どんなカウンセラーに受けてもうまくいかず、困り果てていた。


 そうすると今度は、少女のほうがノイローゼ気味になった。不眠になやまされ、やっと眠ったかと思うと、少女の中で男Bが叫ぶ。

“僕にも人権があるんだ”

“僕は本当に存在するんだ”

“僕を消さないで”

 そこは白い部屋で、白いテーブルがひとつに、椅子がひとつ、椅子にスポットライトがあたっている。男Bはいう。

「この椅子にひとりずつ座ること、何が不満なんだい?」

 少女と男Bの二人きりだけ、まるで刑務所の中のような場所で厳重に鉄格子が組んでいる。

 少女は男Bがずっとにらんできたりおこったりするので彼からはなれ、鉄格子をつかんで外に向かって叫ぶ。

「この夢からだして!!」 


 そうして目が覚めたと思うと、また同じ白い部屋におり、同じ出来事が始まった。ループする夢から抜け出せないのだ。目が覚めたらノイローゼに悩まされ、苦しい、少女の苦痛と目のクマは次第に深くなっていく。それもこれも、どのカウンセラーも焦って“人格統合”をしようとするからだ。それが〝二重人格〟の基本的な対処方法であるという事は重々承知だが、少女の中の苦痛は次第に大きくなっていった。


 やがて、少女は一人の天才カウンセラーにあうことになった。一人で調べ上げ、一人で現地である隣の都市にいき、一人でカウンセラーと会話した。

「こんな近い場所に、こんないい先生がいたなんて」 

 少女はこれまでの悩みをすべて打ち明けた、とても打ち解けやすい先生で、少女も、Bも心をひらいた、先生はいった。

「焦ることはないんですよ」

 その後も、長々そこで治療をうけたが、しかし一向に改善しない。二人の人格はむしろ、強くなるばかり、いい先生ではあったが本当に有能なのか疑問を抱いてきた少女、そして、とうとう本音をぶつけた。

「あなたは、本当に医者として優秀なのですか」

「いいえ」

「では、あなたは何の天才なんですか」

「二つの人格を“尊重”することです」

 少女は唖然とした。どこか、男Bに似たところがあると感じたからだ。そして、カウンセラーは続けた。

「私たちは、あなたがお互いを尊重するために生み出したもう一つの人格“カウンセラー”です、あなたが夢を見ている時に夢のなかに出てくる人格です、私はあなたの“現実のカウンセラー”への失望からうまれた」

 そして、カウンセラーはひじをテーブルのうえにのせ両手をくんでいった。

「まずは一歩一歩進めましょう、ゆっくり統合すればいいのです、焦ることはない、なぜなら、あなたは落ち着いて夢が見られるようになったのですから」

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人格統合 ボウガ @yumieimaru

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