聖夜のフライドチキン
紫野晶子
第1話 クリスマス
中山みなみは、日本のクリスマスが嫌いだった。なぜ人々は、毎年この日になると、信じてもいない異国の宗教のために宴を開き、浮かれ騒ぐのだろうか。彼女にはその軽薄さと節操のなさが理解できなかった。駅前を飾るクリスマスツリーも、道行くカップルの群れも、商戦で賑わう繁華街の風景も、彼女にとってはただ目障りで、うるさいだけだった。
それをいえば他の催し物...正月、バレンタイン、盆踊り、ハロウィーンなどもうるさいことにはうるさいのだが、中でも彼女がとりわけクリスマスを嫌うのは、その日付が彼女のもっとも嫌な記憶と結び付いているからに他ならなかった。
夜の町を煌々と照らすネオンとイルミネーションが目に痛い。人通りの多さに眩暈を起こしそうになりながら、みなみは帰りのバス停までの道のりを急いだ。大学の午後最後の講義が終わるのは18時頃だが、それでも冬となると真っ暗で、だいぶ遅くまで残っていたような気分になる。
ほとんど街灯がなく、夜間は完全な暗闇が訪れる故郷の夜と比べれば、安全でよいと思う。それでも、人波に流され、眩しい夜をさまよっていると、東京などに出てくるのではなかったとひどく後悔するのであった。
今日のバスも着く前から乗り場に長い行列ができており、座れそうにない。見ず知らずの他人と密着状態でぎゅうぎゅう押され、汗臭い空気の中に閉じ込められると思うと、みなみは憂鬱になった。星のない夜空をぼんやり見上げているうちにバスが来たので、慌てて乗りこむ。
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