第12話
気づけばあっという間にフローレンス様とのお茶会の日が来ていた。お茶会の時間は
今は、あまり喉を通らない昼食をさっさと済ませ、ルーシーにお薦めされたお茶菓子を持って、ドキドキしながらアルフレッドを待っているところだ。同じ屋敷内だと言うのに、アルフレッドがエスコートする、と譲らなかったのだ。
服は以前アルフレッドが見立ててくれた、爽やかな紺色と白色のストライプのワンピースにした。裾にレースがあしらわれていて、とても可愛い。
「オリビア、準備はできているかい?アルフレッド君が迎えに来てくれたよ」
お父様の声かけに、もう一度姿見で全身を確認して部屋の外に出る。
「あぁ、その服。やはりとても似合いますね」
そう言って目を細めてこちらを褒めてくれたアルフレッドは、紺色のスーツに、ストライプのチーフを飾っていた。
「…その服」
「えぇ、共布で作って貰いました」
私の疑問に、事も無げに答える。
でも、養母様に会うのに
「似合いますか?」
「似合うけれど…」
微妙な顔をする私を爽やかに無視して、アルフレッドは手を差し出す。お父様に行ってきますをして、アルフレッドの手をとった。
お茶会はサロンの横にひっそりと作られた小サロンで行うようだ。この建物は中央ホールを中心に左右対称の形になっていて、ガラス張りではないものの温室と同じ円形をしている。
私はどことなく普段アルフレッドとお茶をする温室に近いため少し気が楽になった。
部屋の形に合わせて丸いテーブルが置かれ、テーブルを囲うように椅子が3つ用意されていた。何となくアリス嬢が同席するような気がしていた私は、人数分の席にホッとする。
アルフレッドが引いてくれた椅子に座ると、ほどなくフローレンス様が訪れた。
「こんにちは、初めまして。アルフレッドの養母のフローレンスです」
柔らかなほほえみでこちらを見る、フローレンス様を見て、心の中で絶叫する。
(どこが、見た目の話じゃありませんよ!完全に妖精さんじゃない!!)
フローレンス様は、ハーフアップで白銀のふわふわの髪の大部分を背中に流したこじんまりとした美人さんだった。しかも恐ろしいことに、私と並ぶと確実に私が年上に見えるだろう。
一回り近く年上なのに…!
アクアマリンのような澄んだブルーの瞳をけぶるようなまつ毛が彩る。そのこぼれそうな大きな瞳は好奇心で輝いていた。
まるでお人形さんのようだわ。
…ミシェルが見たら喜びそう。
でも、あの冷利な印象のジークフリート様の奥さまのイメージとは違ってたわね。確かに溺愛したくなるくらい可愛い人ではあるが。
「義母上、こちらはお付き合いをしている、オリビアさんです」
アルフレッドに紹介され、引きつりそうになる顔を何とか宥めて笑顔を作る。
「オリビアです。本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「あら、何をおっしゃっているの?オリビアさんはこちらに住んでいるんでしょう?」
アル君に聞きましたよ、ところころと笑いながら言うフローレンス様の言葉に、ぴしりとそのままの形で顔が固まる。
何なの?これは嫌味なの?
ぎぎぎ、とその顔のままアルフレッドを見る。
「例えこの屋敷に住んでいようともお茶会に呼ばれれば普通その様に挨拶しますよ」
「ふふふ、そうかしら」
フローレンス様は相変わらず笑顔だ。
分からない。本当に分からない。この人は、私の事、どう思っているの?
フローレンス様の笑顔は感情が読めない。私は途方に暮れる。
「さぁさぁ、早速お茶を頂きましょう。時間は有限ですものね」
フローレンス様がパンパンと手を叩くと、テーブルの上にお茶がセットされる。用意されたのは私の好きなミルクティーと、兎の形をした可愛いフィナンシェだ。
「あ…これ」
(あ、しまった…)
心で呟いた筈の声が、思わず漏れる。
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに、フローレンス様が身を乗り出す。
「あぁ、これ?アリスちゃんがお土産にって持ってきてくれたのよ。手作りなんですって。可愛いわよね」
「………そうなんですね」
私は、どう答えていいかわからず表情をなくす。
「ふふ、来るたびに手作りのお土産を持ってきてくれるのよ、彼女」
(……いや、良いんだけど、別にいいんだけどね。
フローレンス様の顔を直視できず、また、
私のその動きに、はて?と首を傾げたアルフレッドが、声をかけてくる。
「どうしたんです?そのお土産、渡さないんですか?」
アルフレッドの声にびくっとする。
「え、えぇ、これはいいのよ」
挙動不審な私の声に、フローレンス様がこてんと首をかしげる。
「あら?なんで?せっかく持ってきてくださったんでしょう?くださいな」
にっこり笑って両手を差し出されたので、観念する。
(もういいや、どうにでもなれ。私の所為じゃない!)
綺麗に放送された箱をずいっと渡す。
「…フィナンシェです」
「あら。じゃぁ、こちらも早速いただきましょうか…出してちょうだい」
フローレンス様が嬉しそうにメイドに指示を出す。
そうしてお皿に開けられて出てきたものは…。
「あら?」
「…」
――――アリス嬢の手作りの品と、寸分違わず同じ形の兎のフィナンシェだった。
「……下町で流行っている美味しいお菓子屋さんなんです。庶民の味ですがお口に合えば…」
視線を泳がせながら気まずい思いで、手土産の説明をする。
まぁ、と口に手を当てていたフローレンス様はそのまま何度か二つのフィナンシェを見比べていたが、急にプルプルと肩を震わせた。
私は別に悪くないと思うが、怒らせたか?と警戒する。
「ふふふふふふ!あぁ、おかしい!アリスちゃんたら、見栄を張って嘘をついていたのね」
大爆笑するフローレンス様を唖然とした顔で見るしかなかった。
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