第15話
アルフレッドの言葉に、ガルシア子爵がいぶかしげな顔でこちらを見た。
そして、初めてアルフレッドの横に
「君は一体何を言っているんだ…!?大体、その女はなんだ!」
「おや、ガルシア子爵と顔を合わせるのは初めてでしたか?…ご紹介しましょう。オリビア元ベネット伯爵令嬢です」
私はアルフレッドの紹介に丁寧な
「お初にお目にかかります。オリビアと申します。以前、私のお父様がガルシア子爵家の皆様には大変お世話になったようで、今日はこうしてその
にっこりと笑った私の顔に、ガルシア子爵は苦々しい顔をした。
カーターと、ナタリー夫人は突然の私の登場に、口をあんぐりと開けている。言葉もないようだ。
「ふん、平民の女が今さら何の用だ…御前を汚すなど…!」
王と王妃の御前でありながら、口汚く罵るガルシア子爵を、まぁまぁとアルフレッドがなだめる。
「オリビア嬢はこれからの話の主役ですから」
「ふん、ばかばかしい。私はこれで失礼させていただく」
王に礼を取って立ち上がろうとしたガルシア子爵家の面々を衛兵が構えた剣で制す。
王がゆっくりとした声で話し出す。
「まぁ、そう急くな。して、ガルシア子爵とオリビア嬢はどういった関係なのかな?」
「王!平民の言うことなど、お耳に入れる必要もございません!」
「黙れ。余が問うておる」
王に鋭く制され唇をかむガルシア子爵。
衛兵に取り囲まれたことで、やっとこの場が仕組まれたことであると気付いたのだろう。憎々しげに私の方を睨みつけてきた。私は一言一言噛み締めるように、ゆっくりと話し始めた。
「我がベネット伯爵領は、そちらにいらっしゃいますガルシア子爵、ナタリー夫人、カーターの3人によって騙し取られたのです」
「ほう」
「何を世迷いごとを。証拠はあるのか?」
興味深そうな王と、この場にあってもまだ自らの優位を疑わず、嘲笑い吐き捨てるように話すガルシア子爵。私はガルシア子爵を見据えながら、負けず劣らずの嘲笑を見せる。
「もちろん。証拠もなくこの場で、そのようなこと申し上げるはずがないでしょう?」
私の言葉を引き継ぎアルフレッドが話し始める。
「まず、この話の始まりは元ベネット伯爵家の執事、カーターがパナシウム鉱山より宝石が出たと言う報告を握りつぶし、
一体、カーターとガルシア子爵家にどんな繋がりがあるのかと思っていたけど、どうやらカーターの実家は代々ガルシア子爵家に使えている家柄らしい。それなのに、カーターは素行の悪さから先代に疎まれて、学校を卒業後に執事として家に帰ることを許されなかったようだ。代替わりし、鉱山の話を土産がわりに子爵家に戻った、と言うことらしい。
カーターは、俯いてはいるものの一言も話さない。
アルフレッドは話を進める。
「まぁ、カーターを訊問し自白させる役目は衛兵に任せましょう。私は、その後事業を起こすと決めたベネット伯爵を唆し、借金をさせるに至った詐欺師……その男の存在を証拠と致します」
「ふん、そんな男がいるものか。出鱈目なんだからな」
ガルシア子爵が吐き捨てるように言う。
アルフレッドは、王に向けて話していた顔をガルシア子爵の方に向ける。
「金で雇ったものは、より大きな金で裏切る可能性がある。だから殺してしまえば問題ない。……そう思ったんですよね?」
「だから、御託はいい。そんな男がいるなら早くここに連れてこい!」
「残念ながら詐欺師本人はそちらのガルシア子爵によって既に殺害されております」
「はん、話にならんな」
「しかし、詐欺師はとても用心深い人物でした。彼は、ベネット伯爵領で小さな商会を運営しており、経営難からガルシア子爵の提示する金に目が眩み、詐欺に荷担しましたが、自分の命が危ないことも勿論分かっていました。そこで、自分の命を守るために、やり取りを克明に記した資料を残していました。あなたも資料の存在は仄めかされていたのでしょう?だから、詐欺師を殺した際、家を焼いた。これで大丈夫だと思いましたか?」
そこでアルフレッドは一度言葉を区切り、鞄の中から資料を取り出す。
「詰めが甘かったな。……詐欺師は家を出た息子に資料を預けていたんだ。それがこれだ」
ガルシア子爵はその言葉に目を見開くが、すぐに気を取り直すように声を張る。
「は、平民の残した資料など誰が信じる…!」
「確かに。ただ、この詐欺師は腐っても商会の会頭。自領で宝石が出たことを知っており、それを狙ってあなたが事を起こしたことも掴んでいました。そして、その事についても資料に残していました……この資料を見て、鉱山の宝石産出量が、公開値よりかなり多いのではないかと思ったんです」
ガルシア子爵はゴクリと息を飲む。
アルフレッドは追求の手を緩めない。
そこで、ガルシア子爵家の側で一人動いた人物がいた。こちらに向かってくるのでつい、アルフレッドの腕を掴む。こちらに来た人物はアルフレッドに帳簿のようなものを渡した。
「な、何故それを」
ガルシア子爵の声に振り返った人物はバサッとカツラを脱ぎ捨てた。
「……ブラウン!」
知らなかった!って言うか気付かなかった!
目を見張る私にブラウンはふーとため息をつく。
「…潜入捜査は骨がおれるよ、全く」
「き、貴様…!」
「これは二重帳簿ですね。さぁ、もう言い逃れはできませんよ。王家への納税金額の誤魔化し。王家を謀った罪の重さは……分かっているだろう?」
知っていてブラウンから受け取っただろうに、アルフレッドはガルシア子爵に向けてピラピラと帳簿を振る。
ガクリ、とガルシア子爵は膝を付いた。
静かに王が手を上げると衛兵が動き出す。ガルシア子爵家側の人間は衛兵に捉えられ連れていかれた。
私はやっと息を付いた。
(……これで終わった)
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