とある惑星における、はじまりの物語 -新・創世記-

@Yukari_Kamisiro

第1話 愚にもつかない、まえがきのような何か

 この物語を起草するに当たっては、膨大な歴史調査が必要となった。

 なぜなら、私が気づいているこの事実は、しかし客観的に見てあまりに奇想天外であり、普通の常識と、そしてまともな神経を持ち合わせている者から見れば、到底信じるに値しない話であろうことは、容易に想像がついたからだ。

 しかし、私はこの時代に生きた人間として、帝国から多大な恩恵を受けた身として、そして最も長い時間を、彼と共に過ごした人間の一人として、この事実を遺さない訳にはいかなかった。

 それが例え、私一人の自己満足であったとしても、それが例え、私の勝手な贖罪であったとしても、そしてそれが、私の単なるノスタルジーの発露であったとしても、私は自分にそれを遺す義務があると信じる。


 ところで私は、この物語の副題を『新・創世記』にしようかと考えている。何故なら、私の考えが正しければ、この物語はあくまでも私たちの起源に関するものであり、私たち人類の発祥について著したものではないからだ。

 更に言えば、この物語の中には、多分に私の想像も含まれている。残っている史料があまりに少なく、そもそも知ることが不可能な事実も膨大で、その空いた穴を自身の想像力で埋める以外に、手がないと考えているからだ。

 だからこれは、歴史書ではない。あくまでも、創世記である。伝説と言っても良いかもしれない。あるいは、少しだけ意訳をして、『神話』と言い換えてみたところで、必ずしも嘘つきにはならないだろう。


 さて、前口上はこれくらいにして、そろそろ本編を書き始めよう。どこかで決断をしなければ、いつまでも、こんな愚にもつかない言い訳ばかりを書き連ねることになってしまうだろうから。


 では、どこから始めようか――

 と、悩む振りをしてみるが、実はそれだけはもう決まっているのだ。悩むことはたくさんあるけれど、しかしこの始まりのシーンだけは、最初から心に決めている。


 そう、始まりは――あの日、あの時、あの場所から。

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