人探しの調査で異世界に行きました
光晴さん
第1話 神隠し
都内某所の雑居ビル、その二階に俺の働いている探偵事務所がある。
その名も、神崎なな子探偵事務所。
人探しや浮気調査に人物調査など、主に調査を生業にしているため調査員という人員が五十人ほどいる探偵事務所だ。
俺も、その調査員の一人。
そんな俺はまだ二年目なのに、何故か社長代理に執務室に呼ばれていた。
何か失敗でもしたかな……?
「裕ちゃん、悪いんだけどこの依頼、お願いしていいかな?」
「………」
「ん? どうしたの、裕ちゃん。
そんな表情して……」
「あのな朱美、いくら同級生だったからって、裕ちゃんはないだろ?
それに、ここでは朱美は俺の上司だ。
ケジメは、必要じゃないか?」
「どうせ、私と裕ちゃんしかいないんだから今はいいでしょ?
それより、これをお願いしたんだけど……」
そう言って、俺にA4サイズの藍色のファイルを渡してくる。
ファイルの中からは、数枚の紙が出てきた。
「……人探し、ですか?」
「今、ワイドショーなんかを賑わせている神隠しに関わるものなんだけどね?
うちにも捜索依頼が来たのよ」
神隠し。
今、世間を騒がせている事件だ。
携帯などで、あるネットの掲示板を見ているといつの間にか消えているというものだ。
実はこれ、最初に取り上げたワイドショーのアナウンサーが、同じように携帯でネットの掲示板を見ていてカメラの前から消えたところが放送され、大騒ぎになった。
それ以来、警察やネットに詳しい専門家などを巻き込み、注意喚起が行われた。
にもかかわらず、神隠しで消える人は減らなかった。
特に、人生に疲れた人やニート、さらに事件を解いてやろうとした勇気ある者などが消えていっている。
インターネット自体を禁止にすることはできないため、何とかその掲示板のあるサイトだけを見れないようにしようとするが、別の掲示板に移動して同じように神隠しで消えるなど鼬ごっことなってしまい、今や注意喚起に留まっている。
俺は、詳細の書かれた依頼書を見て複雑な表情になる。
これって、俺に神隠しになってこいと言っているようなものだろう?
「最後の方のページを見てくれる?
そこに載っているのが、警察で確認が取れている神隠しによって消えた人たちの名前よ。
総勢四千六百七十二人。
かなりの人数で、細かくなっているけどそれだけ大勢の人が消えたってことね」
「確か、ここ一年でこの人数でだったか?」
「そう、たった一年でこれだけの人が消えたってこと。
それじゃあ、この消えた人たちはどこへ行ったのか?」
「ん~、分からないな……」
「そう、分からない。
警察をはじめ、いろいろなところが協力しているけどいまだに分からない……」
警察は、消えた人たちの周辺から捜索しているが詳細は不明。
他の探偵事務所や捜索機関も、手掛かりすら掴めずお手上げ状態らしい。
そして、消えた人たちと同じように掲示板を探れば神隠しで消えてしまう。
消えた後の連絡もなく、どうしようもないらしい。
「……まるで、都市伝説だな」
「裕ちゃん、冴えているわね!」
「え?」
「そうよ! これは都市伝説なのよ!
そこで、私は都市伝説の方面から探ってみたの!
そうしたら、あったわ!」
「都市伝説の中に?」
「ええ、神隠しで消えた人たちは、異世界に行く!
それも、剣と魔法のファンタジーな世界によ!」
……それって、創作小説か漫画の話じゃないのか?
そんな類の漫画やアニメ、俺見たことあるぞ?
「だからね、裕ちゃん!
そんな不安そうな表情しないで、もっとワクワクしなさい!」
「ワクワクって……。
でも、これって俺に神隠しで消えて来いってことだろ?」
「良いじゃない、異世界よ? 異世界!
冒険できるわよ! チートやハーレムできるわよ?」
「チートはともかく、ハーレムって……。
あれって、女性に愛想つかされたら終わりじゃねぇか……」
「あら、裕ちゃんはハーレムに憧れはないの?」
「すべての男が、ハーレムを望んでいるわけじゃねぇよ」
「あ、そうなの……。
とにかく裕ちゃん、お願いね!」
「……はぁ~、分かりました」
「大丈夫よ、後で、人数揃えるから。
裕ちゃん一人を、この件の担当にしたりしないわ」
こうして、俺は神隠しを経験することになるわけだが、その前に身辺整理をしておこう。
何があるか分からないし、朱美の言うように異世界に行くとしても、消えた後のことを考えると残しておくにはまずいものもあるのだ。
とりあえず、自宅の冷蔵庫の中身は片づけておく。
いつこっちに帰れるか、分からないしな……。
それと、溜まっている洗濯物も片づけておこう。
こうして俺は、五日かけて身の回りを整理してこの案件に臨んだ。
「まずは、このファイルにある掲示板を調べてみるか……」
朱美から渡されたファイルにある、神隠しの起きる掲示板をネットの中から探し閲覧。
最初から書き込みを見ていくが、別段怪しいところはない。
さらに、スクロールしていくとある書き込みが目についた。
「『どこか遠くへ行きたいと思わない?』か。
書き込みの流れから、いきなりそれた書き込みだな……」
さらに、流れからそれた書き込みが続いていく。
力が欲しくない?
特別な能力が欲しくない?
魔法を使ってみたくない?
「どんどん変な書き込みが増えて、場が荒れてきているな……。
注意や罵倒する書き込みが増えている……」
そこまで言うのなら、みなさんをお連れしましょう。
では、こちらの世界へ……。
「……ここで終わりか。
掲示板の書き込みも、ここからは書かれてないということは、これを見ていた人全員が消えたということ……」
そう考えたところで、俺の目の前の景色が一瞬のうちに変わる。
今まで、探偵事務所の俺の机の上にあるノートパソコンに向かっていたのに、今は少し暗い場所にいた……。
「あれ?」
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