十八 煎餅山分け 用立てる金子
「ええいっ、大盤振る舞いだよっ。皆、賭けるんだよっ。
胴元の払いは二百文の掛札代わりに銚子一本、百文の掛札代わりは目差し一匹さっ」
藤代の女房の綾が大声で言った。
女房の言葉に、藤代がニヤリと笑い、藤代の従妹の藤裳に目配せした。
それに合わせ、綾も藤裳に目配せした。
藤裳はゆっくり頷いた。
その後、胴元と手下たちの買った負けたが続いた。
藤五郎は賭場の勢いを読んで、賭け札が少ない方の目に百文ずつを掛けた。次第に藤五郎の手元に百文の賭け札代わりの煎餅が溜まった。
一方、次第に胴元の負けが込んできた。賭場には銚子とぐい呑みが並び、その横には目刺しが乗った皿がある。藤裳が壷振りに手を加え、手下たちは藤五郎が勝つように仕向けたのは、誰の目にも明らかだった。
「お前さん、もうすぐ昼餉だよ。ここいらでお開きにして皆で昼餉にしようじゃないかえ」
そう言って。女房の綾が藤代を見ている。
「皆の者、お遊びの賭場はここまでにして、この場で昼餉にしよう。
さあ、掛札代りの煎餅と饅頭を出せ。
酒は足りてるか。
目刺しの他に欲しい肴はあるか。
飯はいらぬか」
手下たちは、皆、己たちが勝つように仕向けられたのをわかっていた。と言うのも、遊びの賭場が始まる前、藤代の女房の綾と藤代の従妹の藤裳が、藤五郎と手下たちのために酒と肴を仕度していたからだ。
「総元締、博打をなさるんですかい」
藤代の手下で従弟の
「うむ、世間並みにいろいろしたいと思ってな」
藤五郎は茶碗に注がれた酒を一息に飲み干した。藤五郎二十四歳だ。親譲りの背丈は六尺を超えていた。
酒は子どもの頃から飲んでいる、酒はいくら飲んでも酔わない。身体が大きいからではない。酒を飲んでも酔わないのは親譲りの性格だ。酒を飲んだ時はいつも酔った振りをしているだけだ。
「藤五郎は商売に慣れて、今度は人並みに遊びたいと思っているのよ。
そろそろ身を固める潮時だと思うが・・・」
藤代は藤代の従妹の藤裳を見た。藤裳は見た目の器量だけでなく心の器量も良く、才長けている。それにも増して藤裳は藤五郎にぞっこんなのだ。その事を藤裳は、藤代の女房の綾だけに話して他は誰にも話していない。
「そうだな。いろいろ、変わる時期だと思う・・・」
藤五郎がそう言うと、藤代の従妹の藤裳の顔が笑顔になった。
「おおっ、藤五郎が納得したぞっ。
さあ、飲め、飲め。
藤裳っ、こっちに来て藤五郎に注いでやれっ」
藤代は従妹の藤裳を身近に呼んだ。
藤裳が藤五郎の傍に座って酌をした。はためには似合いの二人に見えた。
「ところで、藤五郎、博打の元手はどんだけあるんだ」
藤代は藤五郎に訊いた。
「ああ、これだけだ」
藤五郎は人差指一本を立てて見せた。
「一両か・・・」
藤代の言葉に藤五郎は言った。
「一朱だ」
「・・・」
藤代は沈黙した。
一両は、分なら四分、朱なら十六朱、文なら四千文である。つまり一朱は二百五十文だ。百文の賭け札なら二枚にしかならない・・・。
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