十七 いかさまの手立て

「何度賽を振っても出目が同じか・・・」

「そうだ。以前は中にみずがね(水銀)を仕込んだが漏れ出て、いかさまがばれた。胴元と壷振りが袋叩きにされた挙げ句、殺された。

 それ以来、賽の中に金を仕込むようになった。

 壷振りは客が丁半のどっちに多く賭けるかを見て、微妙に壷を動かし、賽の目を変えるのだ」


「そんなに上手く出目を変えられるのか」

「まあ、上手くゆかぬ時もあるが、胴元は、その夜の賭場を閉め時に、負けなければ良し、と思ってる」

「客が勝っているように仕向け、最後は胴元が勝つのか・・・」

「そう言う筋書きさ・・・。

「さあっ、賽を振ってくれっ。皆賭けろよっ」

 藤代がそう言うと手下たちが気ままに丁や半にかけ始めた。


 賭場の総勢は藤五郎と藤代と、女房と手下七人だ。胴元は藤代の女房の綾。壷振りは藤代の従妹の藤裳だ。

 藤裳が壷に賽を放り込んで振り回して、バンッと賭場に置き、

「さあさあっ、皆の衆っ、張ったりっ張ったりっ」

 賭場に壷振りの声が響いた。


 博打をしているのは、胴元の女房と壷振りを除いた八人だ。藤五郎と藤代を除けば、手下の六人のうち、丁に四人、半に二人が百文の掛札(煎餅)を賭けている。

「さあ、藤五郎は半に百文を賭けろ。俺は見てる・・・」

「わかった。半に百文」

 藤代に言われたとおり、藤五郎は己専用に、賭場に置かれた半の掛札入れに、百文の掛札(煎餅)を一枚置いた。


「良うござんすかっ」

 壷を振った藤裳が、さらに壷を賭場の真ん中へ押した。

「良うござんすねっ」

 そして、さっと壷を取った。

 現われた二つの賽の目は、四と三の合計が七、半だった。


 丁に賭けた四人は負けて百文の掛札(煎餅)を失い、藤五郎を含めた半に賭けた三人は勝って元金の百文の掛札(煎餅)に加えて百文の掛札(煎餅)を得、胴元は百文の掛札(煎餅)を得た。

「まあ、こんな風にして、胴元は負けぬのだ・・・」と藤代。


「いかさまは賽の細工だけか」

 藤五郎は藤代に訊いた。

 藤代はニタリと笑って言う。

「壷にも仕掛けがある・・・。賽は微妙に大きさが違う。そして片方の賽には金の他に鉄が仕込んである」


「壷に髪の毛を仕込んで片方の賽だけを動かす・・・。あるいは磁石を使って賽を動かす・・・」

「そう言う事だ。藤五郎もわかってるではないか」


「それくらいは誰しも思いつく。思いつかぬのは、博打で熱くなっているせいだろうな・・・・」

 藤五郎はそう言って藤代に、手下たちを目配せした。手下たちは掛札代りの煎餅を失った者も、煎餅を得た者も顔を赤くして興奮している。

「賭場の客が藤五郎みたいでは、賭場は儲からぬ。だが、大半があやつのような者ばかりよ・・・」

「あいわかった。博打を続けてくれ・・・」

 藤五郎は藤代にそう言って、壷振りの藤裳に目配せした。

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