風が吹いている
@hashire
第1話 新たなるスタート
第1話
新たなるスタート
入学式はあいにくの雨だった。大体自分の晴れ舞台はこんな感じだ。肝心な時に雨が降る。
でも俺は雨はそこまで嫌いじゃない。雨の日の試合はむしろ好きな方だ。降りすぎてるくらいの方がテンションが上がる。
体育館の用意された椅子に座って周りを見渡すと後ろで開式前に既に寝ている奴がいた。
こいつは緊張とかしないタイプなんだろう。
イヤホンをして周りを寄せつけないオーラがある。イケメンなのが腹立つけど。
開式までそんなに時間もないし、どうせ周りの人もこいつを起こさないだろうと思い、イヤホンを取ってやった。
かなり熟睡してたようで、30秒くらい伸びをしていた。
「お前名前は?」
俺に少し興味が湧いたようで話しかけてきた。
「一ノ瀬誠、よろしく。」
「美里中学の一ノ瀬か、1走の。」
「そう、陸部だったの?」
「短距離やってた、滝沢流星だ、よろしくな。」
「え?」
急に出てきたビックネームに驚きを隠せなかった。
滝沢流星といえば中学時代、野球部から転部し、200mで関東5位という好成績を上げた超有名人物だ。
なぜこの高校にいるのか、不思議でしょうがない。
「じゃあ滝沢は、ここで走るのか?それとも野球に戻る感じ?」
「お前は走らないのか?」
今までとは違う真っ直ぐな目で滝沢は聞いてきた。
俺はこの時既にワクワクする気持ちを抑えられずにいた。そして、強く答えた。
「走るよ、もちろん。」
「改めてよろしく一ノ瀬。」
「うん、よろしく。」
これが滝沢流星との出会いだった。
式が終わり休み時間に滝沢の元へ足を運んだ。
まだ有名人と話す気分は抜けていない。サインでも貰っとこうかな。
また滝沢はイヤホンをしていた。
こいつ音楽は何を聞くんだろう。
「滝沢はなんで大谷高校に来たんだ?」
「来ちゃ悪いか?」
天才というのはやはりこんなもんなのだろうか。
嫌いでは無いが天才だなと思う返しで笑ってしまう。
「いや、お前なら私立の有名なとこ行くと思ってたからさ。」
「強豪は倒す方が楽しいだろ。」
意外と滝沢はクールに見えて熱いものを持っているやつなのかもしれない。
滝沢は持っていた麦茶を軽く飲み、ベランダに出た。
「それに別にここが弱いと思ってるわけじゃない。キャプテンの瀬口さんは中学時代の先輩だしな。あの人がいたから俺も安心して来れた。」
瀬口さんといえば、滝沢と同じ陸上の名門坂田中の2走を走っていた人だ。とんでもなく勝負強いし抜かれるところを見たことがない。
「逆にお前はなんで大谷なんだ?」
「別に俺は近かったからだよ。」
恥ずかしいことに私立に行けるほどのお金は家にはなかった。
それと同時にそこまでの環境に行く気力も当時の俺にはなかった。なんなら別の部活にでも入ろうかとすら思っていたくらいだ。
「お前のスタートダッシュめっちゃ良かったの覚えてる、反射神経いいよな。」
関東一位に褒めらるとこんなに気分がいいものなのか。
今ならこのベランダから飛び降りても生きて帰れそうだ。
「スタートダッシュは何度も練習して身につけた。唯一の特技みたいな感じ。」
滝沢は相変わらず外を見ていたが、その目は真剣だった。
「俺から見たら関東で1番のスタートダッシュだった。」
「それは言い過ぎで笑うわ。」
「いや、マジで。」
「俺お前となら関東取れると思う。4継。」
こんなにストレートに思いを伝える奴とあったことがなかったから未だに慣れないが、今自分はすごい褒められているということだけは分かった。
「嬉しいけどそれはあと1人次第だね。」
「まぁそれもそうだな。そんな期待してねーけど。」
と言いながら少し楽しそうな滝沢は席に戻っていった。
風が吹いている @hashire
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。風が吹いているの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます