第8話 『伸びなさ』の仮説



「伸び悩みですかぁ」

 と俺は繰り返す。


 実にシンプルな悩みだ。

 当然ではあるけれど、順風満帆な時に人は迷わない。

 行動の成果が得られず、進路を疑いだして、打ち手を見失うから、人はくじける。

 人が悩むのはからだ。


「なるほど」

 俺は頷いた。

「一応、事前にチャンネルは拝見していました」


 お絵描き系VTuber・黒縁ぐらす。


 平均同時接続者数は400名。

 チャンネル登録者数は20,000人。

 ライブ配信のアーカイブ動画の視聴回数は1,000〜3,000回ほど。

 特筆すべきは──


「伸び悩んでいるとは言うものの、人気な配信ライブ録画動画アーカイブは平均再生回数が10,000〜30,000回もあって、チャンネル登録者数に照らすとかなり多いですね。しかも過去には頻繁にこの数字が出ていたみたいですし」

 俺は正直な感想を伝えた。

「個人VTuberでこれは相当なものだと思いますよ」


「あはは、ありがとうございます……。でも、これ、まぐれなんすよね〜〜……」

 黒縁ぐらす氏は遠い目をして項垂うなだれた。

「最近は配信をしても、同接は400人から上がらないし、チャンネル登録者も増えたり減ったりで……。前はもっと……伸びる時は伸びるっ、って感じだったんですけども、どうしたんやろ〜〜〜〜って……思ってまして……」


「ふむ……。直近の活動の方針をお伺いしても?」


「私は、こう見えても絵描きなので、」


 と黒縁ぐらす氏は語り出したが、どう見ても絵描きだ。ベレー帽とかね。


「絵の上達法をリスナーさんたちに教えていく配信とか、私がおふざけしながら絵を描いていく配信とかを交互にやってます。やっぱり、絵描きっていう個性は活かしていったほうがええかなって思ってですね」


「なるほど。他にもアニメとか3DCGとか、いろいろ作っていて凄いですね」


「私、いろいろなことに興味があるんですよね〜〜。練習も苦じゃないし……」


 興味があるというのはそれだけで才能と思うのだけれど、それを語る黒縁ぐらすさんの口調はどこか暗かった。


「改めて拝見しますと、ぐらす先生はTwitterも人気なんですよね」


 フォロワー数は、なんと80,000人。

 活動は数字ではないが、創作を職業にするならば避けては通れない指標である。

 日本のイラストレーターはフォロワーが伸びやすい人気ジャンルだが、その中でもこの数字は、プロとして及第点以上といえる。


 YouTubeアカウントを眺めても、黒縁ぐらす氏が語った方針に嘘はなさそうだった。


 ──絵の上達法をリスナーさんたちに教えていく配信とか。

 ──おふざけしながら絵を描いていく配信とか。


 お絵描きのレクチャー動画はどれも丁寧で分かりやすくて実用的だ。

 おふざけ配信はギャグに振り切っていてサムネもコメントもハイテンションだ。

 どちらも見事で、二つとも完成度がとても高い。一見して弱点が無い。

 だとすれば──



 ──だとすれば、伸びない理由は、



「ありがとうございます。大まかに分かりました。もう少し細かく分析してみたいので、YouTubeアナリティクスを見せてもらえますか? ご自分のスマホで結構ですので」


 俺は、できるだけ好青年として印象つくように笑顔で、黒縁ぐらす先生に言った。


 説明しよう。

 『YouTubeアナリティクス』とは、YouTubeにおける投稿者用の機能ツールのひとつだ。

 投稿した動画や生放送ライブの統計データを詳細に追うことができる。

 アナリティクスを分析して、どうすればタレントが伸びるのか、どうすればもっと視聴者が満足してくれるのかを知り、改善していくのは、俺のようなインフルエンサープロデューサーの職務のひとつだった。


「すっごい、佐々木さんが真剣だ……」

 高山愛里朱が、ごくりと生唾を飲んで呟いた。

「なんだかお医者さんみたいだねえ。触診しているっぽいっていうか……」


「はい、自宅に土足であげてる感がすごいです」

 と黒縁ぐらす氏も、体を強ばらせる。

「ちょっと怖いです」


「すごい不名誉。もうやめようかな」

 高山愛里朱と黒縁ぐらす氏の波状ディスりに、俺の心はもう保たない。


「ごほん。さて、拝見しますね」

 黒縁ぐらす氏が切り替えてくれたスマホの画面に、俺は指を走らせていく。

 彼女が今まで行ってきた配信の、裏側のデータが露わになる。

「ふむ」


 結論だけ言うと、俺が先ほど思いついた「『伸びなさ』の仮説」は、アナリティクスで細かい数字を見れば見るほど当たっていそうだった。

 ただ一点、奇妙なデータの乱れがあったが、誤差の範囲だろう。乱れに該当する箇所シーンを視聴してみたが、まあ、偶然と捉えて良い内容だ。

 彼女が組んでいる方針的にも「仮説」は矛盾しない。


 うん。

 黒縁ぐらすが登録者を伸ばせていない理由は、おおむねこれで相違ないだろう。


「──診断は終了しました」

 俺はスマホから目を離す。

「俺の見解をお伝えしますが、活動に反映するかどうかはお任せします。YouTubeに絶対の正解はないので、あくまで一般論と思って聞いてください」


 そうして俺は見解を語りだす。




――――――――――――――――



 今回もお読みいただきありがとうございます。


 私なりの知見を活用して本格的に書いていくつもりですが、主人公も言っている通り、YouTubeに正解は無いのと、分析の結果には諸説があります……。

 お詳しい方は別の見解をお持ちになるかもしれませんが、優しく見守っていただけますと嬉しいです。


 続きを書くモチベーションになりますので、

 引き続きフォロー&☆で応援いただけますと幸いです……!


【追記】

2023.07.20現在

週間・現代ドラマジャンル

ランキング7位ありがとうございます…!

思い出になります。。。


最近Twitterもはじめました…

よろしければプロフィールからぜひ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る