第4話 イーディー

 妃涼ひすずさんとカフェで話して、こっぴどい振られ方をしてからすぐに1ヶ月が経った。


 当然だけど、あれから向こうとの接触はない。

 俺はなかなか失恋のショックが癒えなくて、大学のツレたちと毎日夜中まで遊び歩いてる。


 遊び歩いてるって言ってもかなり健全。

 普通のバーに始まり、ダーツバー、プールバー、カラオケ、ボーリング、ツーリング、ロングドライブ、合コン、キャバ、その他諸々。


 要は酒を飲んで遊び回ってた。


 ただ、風俗だけはダメだった。


 いや、行くには行ったんだよ。友だち数人と。俺の失恋の慰めってことで奢ってくれるってことで。結構高い新地に。

 20分で諭吉が2枚以上飛ぶようなとこに。


 他の友だちは相当楽しんだらしい。

 俺も、見た目が好みなお姉さんが店先で手招きしてたから、その店の遣手婆に紹介してもらって一時の恋愛を仲介してもらったんだよ。


 めっちゃ美人だったんだけど............大失敗だったのは、俺の根本的な好みは一定なんだろうな。

 よく見たら似てたんだよな、その嬢の雰囲気が、妃涼さんに。


 そう思うともう全然だめ。結局、お店の嬢は20分間いろいろ頑張ってくれたけど、俺の息子はついぞエレクトすることはなかった。


 2万円以上払って、男としての屈辱と、嬢の方に申し訳ない気持ちと、それから奢ってくれた友達にも申し訳ない気持ちとを獲得して終わった。

 店を出て友達と合流して感想を言い合ったとき、勃たなかったことを赤裸々に報告したら、友だちはみんな『初めての風俗で緊張でもしたのかよ』とか『もったいねー』とかいって笑い飛ばしてくれたからまだ辛うじて心は救われた。


 ただ問題はこのときだけでは終わらなかった。

 俺は幸いにして見た目もその他諸々も、そこまで悪くないらしく、合コンに出向いては女の子と仲良くなったりした。


 その中である日1人、まぁまぁいい感じになった子をお持ち帰りしたわけなんだけど..................息子が元気になることはなかった。

 例の新地の嬢とは違って、別に妃涼さんに似てるわけではなかった。だけど、無理だった。


 自分の魅力がないせいだ、だなんて相手の子は傷ついてしまったらしく、泣きだしてしまって、最終的には1人で帰すことに。


 今回勃たなかった理由もわかってる。

 あのとき妃涼さんに言われた言葉がフラッシュバックしたから。








「ふふっ、つくるってば、カワイイっ」


「創っ、大好き......っ!」


「つーくーる♡ ふふふっ、すっごくすっごく、ヨかったよ♡」


「ずっと一緒にいようね」


 なんて、妃涼さんとの蜜月(と俺は思ってた)の日々。お互いがお互いの心に寄り添って、身体を交わらせなくても心が満ち足りて、たまに交わったときにはさらに満ち足りて。

 特別ななにかがあったわけじゃないけど、当たり前の日常が最大の幸せだった。若輩の身ながらも、そこに永遠があると、そう思ってた。

 そんな日々からの......。


つくるがヘタクソで気持ちよくないどころか痛くて気持ち悪いだけだったから、適当な理由をつけて避けてただけよ』


 っていう、あの一言。

 あれは俺のガラスの心を砕け散らせて修復できないダメージを与えるのに十分だったらしい。

 お互いが楽しめていたと思っていたのが全部幻想だったと叩きつけられたあの一言で、俺はソウイウコトに関する自信を完全に失ったらしい。

 そこにある愛情を、信じられなくなったらしい。






 そう、あのとき妃涼さんに言われた『ヘタクソ』って言葉のせいで、俺の息子は不能になってしまったらしい。

 精神的外傷、トラウマってやつだ。


 ある程度までいい雰囲気まではいけたんだよ。

 前戯をして、高まってきたところでゴムを付けて、宛てがうとこまではいけたんだよ。


 でもそこから先に進めようとしたら、妃涼さんの言葉が脳裏をよぎって......だめになった。

 完璧に呪いだわ。


 俺をこっぴどく振るだけでは飽き足らず、こんな置き土産までしていくとは、まじで最悪の女だ。

 せめて俺の記憶から早くいなくなってくれよ............。


 あんたのせいで、俺のせっかくのキャンパスライフが灰色だよ。

 結局、合コンで出会った彼女にも申し訳ないことをしてしまう結果になり、EDが悪化するきっかけになった気がするし。


 サークルには顔を出してない。大学の環境保全サークル。中身の実態は遊びとか飲みが中心で、たまに地域のゴミ集めとかいくつかの環境保全活動をするって感じのゆるいサークル。

 妃涼さん......いや、あのクソ女と出会ってしまった最低の思い出しかない場所だから。


 サークルメンバーはみんな明るくて気さくで気が合ういい奴らだったんだけどな。

 妃涼さんと付き合ってるころは、その輝きがさらに眩しく感じてたと思うんだけど、今はその輝きが逆に毒になって俺の心を蝕んでくる。


 好き......だったんだよなぁ。本気で。


 もっと早く、あんな最低女だって気づけてたら、ダメージも少なかったのになぁ。






 あー、妃涼さん、今頃は、ハイスペ旦那と励みまくってんのかなー。

 俺は、本気で、君と一緒に幸せになりたいと、思ってたのになー。













 頼むから死んでくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る