第23話 自分の部屋
「いやぁ、一緒に仕事をしてたじいさんが年でもう働けないって、辞めちゃってね。イオリが来てくれて助かったよ」
宿舎の廊下を歩きながら、ハゼリが楽しそうに言った。
「いえ、私もありがたいです」
「そうかい。あっ、そうそう、私驚いちゃったよ。珍しい事もあったもんだね!」
「はい?」
「まさか大隊長本人があんたを連れて来るとは、思わなくてね」
「え」
「いつもなら、ルクスに任せてたよ。自分は“めんどくせぇ”、ってね」
ハゼリはジェイドの真似をして、イオリを笑わせた。
彼女はとても明るく、楽しい人だ。イオリの部屋は宿舎の三階、廊下の突き当たりだった。女性の軍人は男性に比べるとやはり少なく、一人一部屋を割り当てられている。反対に、男達は新兵の間は相部屋で窮屈。階級を上げれば一人部屋をもらえると、ハゼリは説明した。ちなみに、ハゼリの部屋も三階。イオリの隣の部屋だ。女性の部屋は、最上階の一角を専用スペースにしている。
「あの、ジェイドさんはどこに住んでるんですか?」
町に家を持っているのか気になったので、それとなく質問してみる。内心、緊張していた事は、ハゼリには内緒だ。
「大隊長は、本部の中に自分の部屋を作ったんだよ。まぁ、緊急の連絡とか入るから、すぐに動けるようにそうしたんだけどねぇ。でも、仕事は深夜まであったり、海に出る時もあるから、結局、部屋には戻らず仕事部屋で仮眠をとったりしてるみたいだよ」
やはり、ここにジェイドは戻って来ないのかと、イオリは少しがっかりした。部下に任せるような事を彼自信がした、という事を喜ぶ間もなく、気持ちはしぼんでいく。とにかく彼は忙しい。邪魔をしてはいけないのだと、イオリは悟った。
もらった新聞を握り締める。
(今は、自分の出来る事をしなくちゃ)
気持ちを切り替えた。
「さあ、今日からここが、イオリの部屋だよ!」
ハゼリが、イオリが使う部屋の鍵を開けた。
軍艦の部屋よりも広い。白い壁が部屋を明るくしている。そして、窓の側に机とベッド。机の上に段ボールが置いてあった。壁際にはクローゼットと本棚もある。
「こんなに良いお部屋……。私一人が使って、本当に良いんですか?」
「いいのいいの! この部屋、ずっと使われなくて空き部屋だったんだ。ちょうど良かったよ。もしかしたら、この部屋もあんたが来るのを待ってたのかもしれないね」
宿舎の肝っ玉母さんは、部屋に入り窓を開けた。心地良い風が吹き抜ける。
「大隊長から連絡があって、すぐ掃除したんだけど、簡単にしか出来なくてごめんね」
「いえ。掃除は自分でも出来ますから。ありがとうございます」
イオリは首を振ってお礼を言った。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。それじゃ、この建物の案内をするよ。これ、この部屋の鍵ね。失くさないように」
「はい」
「寝る時も、鍵をかけ忘れないようにするんだよ! どこぞの狼軍人が入って来るか、わかんないからね」
「ええ!?」
ハゼリの冗談に、真面目に反応してしまった。ガハハと豪快に笑いながら部屋を後にする。イオリは机の上に、もらった新聞と本屋で買った本を置いてハゼリの後を追い、忘れないよう鍵をかけた。
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