Roaring 53. お前も職員(非正規)にならないか?
『……番号札、一九八四番をお持ちのお客様。一〇一番窓口までお越しください~』
「……くそっ!」
いらいらと貧乏揺すりするダーティは手もとの番号札を確認し、それからここに来てから何度目を通したかわからない古新聞に視線を戻した。
それから数時間が経ってようやく順番が回ってきたダーティは、足早に窓口に向かった。
「ご用件は?」
「これ以上、ドリームランドに滞在する気はない。とっとと現界に戻してくれ」
「……あー、あなたの場合は、死人ではないので、『チート転生課』ではなく『普通に覚醒してもとの世界に戻る課』ですね」
市役所の職員らしき眼鏡の男は、ダーティが各窓口で集めた資料にさっと目を通して、遥か反対側の窓口を指差した。
「そっちにはさっき行った! こっちの窓口に行くようにって言われたぞ!」
「そう言われましても、転生ではないので、こちらでは対応しかねますね」
「おい、いい加減にしろ! ここで何時間待ったと思っているんだ!」
「お客様、そう暴れないでください。警備員を呼びますよ?」
バンバンと怒りに任せて机を叩くダーティに、男は目も合わせずに告げた。
「混んでいるのは私どもの責任ではありません。最近では〈転生者〉が爆発的に増えたこともあって、どこも同じような込み具合なのですよ」
「くっ、こいつ……。俺はナルのダチだぞ? ちょとは融通してくれても……」
「特別待遇はなしです。合衆国最強の魔法使いだが何だかは知りませんが、その程度の登場人物はありふれています。飽和状態の物語世界においては、知名度がすべてですよ。普通に並び直すがいいでしょう」
「くそ、足下見やがって……」
一笑に伏され、歯噛みして引き下がろうとしたところで、ダーティははっと気づいた。男が着ている黒い服が、ドリームランド役場の茶色い制服と異なっていたからだ。
「……おい、ここドリームランドじゃないだろ」
「おや、ようやく気づいたのですか。その通り、
「役場たらいまわし地獄か! 俺が一番嫌いなやつ!」
眼鏡の男が立ちあがった瞬間、大理石張りの高級感溢れる役場がふっと掻き消され、暗黒の空間に男と二人で放り出された。
「儀式を妨害されたことで、ヨグ=ソートス様は大変ご立腹でいらっしゃいます。罰として、あなたは大嫌いな役場で永遠とたらいまわしにされて時を過ごすのです」
「なるほど。そういうことか……。それなら、もう遠慮はいらないな」
「なに?」
ゴゴゴゴと地鳴りのような響きが暗黒を揺るがし、ダーティ・H・ポッターは金色の魔力をその身に纏って男と対峙する。
「どうやら、ドリームランドと同じく、ナイトメアランドでも俺の魔力は全盛期と同じらしいな。二週間は行政サービスができないようにしてやるぜ!」
「愚か者めが。探偵風情がこのハスター主任に勝てるとでも思っているのか!」
「やってみなくちゃわからねーだろうが! いっつもいっつも法令やら法律やらを盾に面倒な手続きを押しつけやがって……この税金泥棒!」
「抜かせ
激闘は丸三日三晩続き、僅差でハスター主任の勝利と相成った。やはり背負っているものが違うのである。ぐうたら無職同然の男が、まっとうに働く男に勝てるわけがなかったのだ。
「くっ……そんな、馬鹿な……」
傷だらけのダーティに、ハスター主任はふっと微笑んで手を差し伸べた。
「……いいガッツだ。お前も職員(非正規)にならないか?」
「絶対いやだ」
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