楽園の端っこ側
Roaring 13. 狩りの日
「これが最後の一枚です」
「そうか……」
その日の朝、ダーティ魔法探偵事務所は深刻な食糧危機に陥っていた。
冷蔵庫や食糧庫の中身は見事といっていいほどに空。パンやハムといった主食はもちろん、バターやジャム、牛乳の類もなく、ただ何もない空間だけがあった。
つい数日前にマフィアからの『お土産』で、イタリア料理の豪華なディナーを楽しんだとは思えないほどの落ちぶれぶりだった。
「それじゃ、いただくか」
「はい……」
食卓の上に並んだのは、食パンの半切れとコップ一杯の水だった。
二人は無言で朝食を始め、そしてよく噛んだ後に、二分ほどで食べ終えた。
「腹減ったな」
「…………。……一応、もう一度だけ聞きますが、買い物には行かないんですか?」
「そんな金はない」
「えっ、じゃあ、どうするんですか! このまま依頼人も来ずに餓死するんですか!」
「あー、もう喚くな。余計に腹が減るだろうが」
普段の食事では、定期的な食糧調達後に計画通りに消費することにしているが、週の途中でアメリアが来てしまったために計画に狂いが出てしまったのである。
いつもは依頼人の家で図々しくも昼食や夕食をご馳走になることにしているが、今週はとくにこれといった依頼もない。お土産のピザやグラタンをアメリアの凍結魔法で冷凍し、なんとか今日までもたせてきたものの、さすがに限界が近づいていた。
いくら元合衆国最強の魔法使いとその弟子とは言え、空腹には勝てないのである。
「こうなったら……釣りをしましょう! それか、氷を食べましょう! かき氷のシロップなしです!」
「氷は腹を下すからやめとけ。釣りは悪くない……が、それはあくまでも最終手段だ」
ダーティはじっと腕を組んだまま、壁掛けのカレンダーに目をやった。今日が待ちに待った金曜日で、赤丸が付けられた日であることを思い出して、ニヤリと笑みを浮かべる。
「運がいいぞ、アメリア。今夜は『狩りの日』だ」
「狩り?」
「食糧調達日のことだ。夜まで耐えれば、今日はご馳走にありつけるぞ」
「ご馳走……」
自信満々に言うダーティに、アメリアは訝しげに眉をひそめた。
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