バンドごと転移した異世界は、音楽で魔法が使える世界でした

元住吉菜々緒

第1話 対衝撃姿勢を取れ!

グラグラグラグラ


「おい、シートベルトしっかりしておけよ!」

今売出し中のバンドThe Wonderlandsザ・ワンダーランズ、通称ワダランの乗った飛行機が激しく揺れていた。

「だからバミューダトライアングルを通過するなんてヤバいって言ったじゃない?」

ギターの白井うさぎは、この飛行ルートには最初から反対だった。

「そんなの都市伝説じゃない?」

ベースの山根ひなたが反論する。

「都市伝説じゃないよ!『ドラえもんのび太の海底鬼岩城』に出てきたの!」

「じゃぁ都市伝説以下の信ぴょう性だわ」

「はぁ?!」

「まぁまぁ落ち着いてふたりとも」

ワダランのフロントマン、ギターボーカルの節木野ありすが仲裁しようとする

「「落ち着いてる場合じゃない!」」

たしかに今は緊急事態だ。なにしろ飛行機が大変な乱気流に巻き込まれて、ひょっとすると墜落するかもしれない。

「ウォルラス、大丈夫そう?」

ありすが飛行機を操縦する黒人に声をかける。

「正直、わかんないね」

ウォルラス・ハンターはこの飛行機のパイロットでもあり、同時にバンドのドラマーでもある。ちなみに飛行機はひなたの家の所有物だ。

ガタガタガタガタ!

飛行機が激しく振動すると同時に窓の外が黄金の光に包まれた。

「な、なに?」

ピピー!ピピー!

飛行機の計器がけたたましく警告音を鳴らす。

「どうもどこか壊れたみたいだ!一度不時着するぞ」

GPSもうまく働かない様子。ウォルラスは、目の前に見える砂浜に飛行機を誘導する。

「対衝撃姿勢を取れ!」

ゴゴガッ!ガガガガッ!

引きちぎられるような衝撃とともに、飛行機は砂浜を滑走し、なんとか停止した。

「ふぅ〜なんとか助かったか」

「危なかったね」

「やはりドラえもんは偉大」

安堵するメンバーたち。

「ふわ〜〜あ」

そこに場違いなあくびの声が聞こえた。

「え?!この状況でよく眠れてたね」

「もうブラジルについたの?」

状況を把握していないこの子の名前はチェシャ・キャット。ワダランのキーボード。最後のメンバーだ。

「いや、墜落しちゃったんだよね」

「墜落ぅ〜?」

「飛行機が壊れて燃料に引火したりしたら怖い。とりあえず外に出よう!」

5人は、飛行機のガタついた扉を強引に開けて、外に出た。

「うーん。ここどこだろう?電波も入らないみたい」


これがすべてのはじまりであった……

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