黙は眼に
佐原キオ
黙は眼に
世界またはじまるときの夏燕
はつなつがバケツを持つて立つてをり
眼鏡柄のアロハの人の裸眼かな
夏浅し夜に五合を炊いてみる
短夜のオセロ定石など知らず
遠雷は思ひどほりに鳴らざりき
五月雨に少年像も痩けにけり
夏の山むかしより急ではないか
骨格はまつすぐにつき滝を汲む
山百合の脳の底にひとりかな
白南風は無限の昼をわたるかに
あぢさゐがまだ見せないでゐる敵意
搗ち割りや黙は眼に訳すべし
麻雀の帰りに購つた温い枇杷
蟻の道すべてかへらぬ旅のはず
短夜の道に鼾をする男
溽暑きみのきさくならざる受け答へ
積分の計算髪はすぐ洗ふ
いうれいの訴へるごと夏の藤
せめて見たしこの世の果ての青鷺を
黙は眼に 佐原キオ @tenma_dalai
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