第13話「悪堕ちした聖女様」

「あの、勇者クン? わたくしたちの教室は二十二階……。どうしてさらに上へと目指そうとしているのです?」

「バカヤロウ。俺が真面目に授業に出るとでも思ってるのか? 地上三十階の屋上でサボるんだよ」

「えっ、ええっ! 登校早々サボるなんて勇者クン、いつの間にそんなにワルになったのですか」

「さぁな。ま、お前は俺と違って真面目な優等生(設定)。サボる度胸がないならついてこないでいいぞ」

「ダメですっ。放っておけません! わたくしがいないと勇者クン、何をしでかすか分かりませんから。と言うことで、わたくしも晴れて悪堕ちいたしますっ♪」

「晴れやかな顔で言うセリフじゃねーよ。そもそもワルと悪堕ちは別モンだっつーの」

「うふふふっ。あーくおちっ、あーくめおちっ♪」


 などと、和気あいあいと階段を上り始めた俺たちだったが――。


「はぁっ、ぁぉふっ、ん゛はぁぅにゅッ……!」


 案の定、先に根を上げたのはアレクサンドラの方だった。


「ったく、だらしねぇな」

「や、やはり運動に特化していない制服カッコウですと、思っていた以上に体に負担がかかりますね……」


 ぺたん、と女の子座りで踊り場にへたり込むアレクサンドラは、いつも以上に小さく、か弱く見える。


「どうする? 戻るか?」

「い、いやですっ。以前にも申し上げました通り、わたくしは足腰には自信があるのです。ですから、このような一時的疲労などすぐにかいふ――く、きゃっ!?」


 小休止の後、立ち上がろうとしたアレクサンドラだったが、即座にバランスを崩し前のめりに倒れ込んでしまう。


「ぅおっと!」


 ドサッ。


 何となく予想できたトラブルに、それとなく立ち位置を調整していた俺は、彼女の身体を難なくキャッチ。


「す、すみません勇者クンっ。抱きとめていただいて……」

「俺がいねぇと何をしでかすか分かったモンじゃねぇな」

「ぁっ、ぁはっ。そのセリフ、先程わたくしが言ったのと同じ――」

「あー、こりゃ足に乳酸がたまってやがるな。しばらく安静にする必要があるぞ」

「安静に、って。この状態のままですか? で、でもそれは恥ずかしいような、嬉しいような……」

「なにごちゃごちゃ言ってるんだ。とにかく、お前のペースに合わせなかった俺にも責任がある。ってことでアレクサンドラ」

「はい?」

「前と後ろ、どっちがいい?」

「ハイイイ!? ど、どっちがいいとはどういう意味でしょう!!! そもそも前か後ろかなんて、いくらわたくしが満足に動けない状況とはいえ、いささか強引過ぎでは……!」

「勝手にヒートアップしてどうしたんだ」

「そもそも神聖な学び舎で情けを交わすなど、神に背く行為! ただわたくしは勇者クンの幼馴染として、その行動を咎めるつもりもありません。いえ、たった今、わたくしは幼馴染から一線超えて――」

「だから、なに勝手にヒートアップしてんだ。で、結局どっちがいいんだ」

「前で! 前からでお願いしますっ」

「うっし。了解」

「ぁあはぁぁッッッ♥ 神よ、罪深きわたくしの戯れ、どうかお許しくださいませぇええええええ……って、ふぇっ?」

「よっ、と」


 要望通り、片膝をついた俺はアレクサンドラの体を強く引き寄せ、そのまま両腕で抱え上げる。


「ぇっ、ぇぇっ? ゆ、勇者クン。この体勢ってもしかして、お姫様抱っこ……」

「あ? だってお前、前からがいいって言ったろ?」

「へ? あ、ああっ! 前……って、そういう意味だったのですね! つまり後ろと言うのは、獣のように扱われるのではなく、単なるおんぶ……」

「当たり前だろ。それがどうした」

「えっ、あっ、その! わたくし、とんだ勘違いを。神よ、妄想深きわたくしの戯れ、どうかお許しくださいませ~ぇっ♪」

「なにニヤニヤしてるんだ。おら、もっとしっかり捕まれよ。振り落とされても知らねーぞ」

「ハイッ♥」


 ガシッ。ぎゅぅぅ~~~~~ぅぅ♥


「ぐえっ! だからと言って首にガッチリしがみつくんじゃねぇ。息ができねーだろうが!」

「だってこうしていないと振り落とされてしまいますから。わたくし、絶対に離しませんわっ」

「ったく、いい身分だな」

「うふふふふ♪」


 グキッ。


 あれ? なんだ。この甘々な雰囲気を真っ向から否定する不穏な音は。

 しかも、その発生源は俺の腰からのような――。


(うげっ!? 腰が、急にズキズキ痛ぇ! ハッ、これはまさか……)


 腰痛!

 アレクサンドラをお姫様抱っこしたことによる状態異常、突発性腰痛のスリップダメージ!


(だいたいコイツがちょっとふっくらし過ぎなんだよ! レベル1のくせに恵体レベルの爆上がりがハンパねぇ!)


 じわりと腰に広がる痛みに、俺の額からは冷や汗がダラダラ。

 当然、その異様な様子にアレクサンドラが気付かないはずがない。


「どうしたのですか、勇者クン。顔が強張ってますけれど……」

「い、いや。なんでもない。持病の腰痛が少し悪化しただけだ。いくら百戦錬磨の勇者様と言えど、泣き所はあるもんだ」

「あら、腰が……。ダメですよ、あまり重いものを持ち続けては。今一度、装備している武器や防具の重量を見直してみてはいかがですか、勇者クンっ」

「……」


 こいつ、天然か?

 おめーだよ、原因は。なにいっちょまえに説教してんだよ。

 と、皮肉のひとつでも言いたいところだが、言ったら負けなんだろうな。

 クソッ。百戦錬磨の勇者様であるこの俺が、レベル1のクソザコ天然幼馴染悪堕ち聖女のケツの重みに負ける日が来るなんて思わなかったぜ――!

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