波蝕
ささなみ
波蝕
うとうとと舟を漕ぐ君やわらいで
輪郭あおく夢のほとりへ
追憶がマティスのまわりに漂って
そうだね ここは色彩の海
昼寝から目醒めて猫は舌あかく
ぼああああ あくびのような汽笛だ
電球の白にアイスをさしつけて
いつかの夜の水色の月
銀波からこぼれた星を集めより
並べてここをチャペルとしようよ
あたらしい家には金糸のカーテンを
しずかなひかりの檻にくるまれ
坂道を走り抜けてく青春の
後ろ姿に紺色の鰭
鉄骨の水槽の中さざめいて
初夏の予感にそよぐ尾鰭は
ありし日の体操着のごとき絹ごしを
水に沈める 鍋は錆びつき
陽のひかり透かしてうねる午後2時の
波間に魚は逃げただろうか
エル・ビスカイノのくじらのため息
食卓塩は白くきらめく
塩分を摂りすぎたなら涸ぶでしょう
レシピどおりに愛してください
年収が5000を超えたらイルカを飼おう
鈍のシンクに跳ねる水滴
寝たくないなあって言いつつ見るアニメで
イケメン王子が幸福を問う
好きだった映画のすじは薄れゆき
羨望のみが浮かび出るあさ
57ページのままのジョナサンが
伏せられている 海を見た日に
「カモメって初めて見た!」と波止場にて
はしゃいだ友は岐阜へと帰る
いつまでも下手でこぼれる水はある
渺茫たる空 三年目の夏
漫然とメレンゲじみた雲を見る
たぶん去年もふたりで見た白
荒波に月は砕けて歌となり
ブルースターは幽かにひかる
波蝕 ささなみ @kochimichiko
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