好きになったのは友達の姉………のはずだった
市川京夜
第1話 アスカ姉さん
―――夏至の近づく6月のある日。まだ明るく少し汗ばむ夜7時前に、オレと綾瀬真奈は部活を終えて家に帰っていた。
「真司、今日は宿題の手伝いよろしく」
「え?今日さっきまで部活だったんだけど。真奈の家行っても疲れてて寝るだけだし帰るわ」
「私だって真司が部活終わるまで1時間は待ったんですけど?バスケ部長すぎ。あ〜疲れた疲れた。誰か心優しい人に宿題手伝って欲しい〜」
「1時間待ってたって………。さっさと"墨田"と一緒に帰ってそれで手伝ってもらえば良かっただろ」
隣で仲良く話すこの女子、真奈とは別に付き合っているわけでもないただの幼なじみ。なんならコイツには彼氏がいるし、悔しいとも思わない。
真奈は目鼻立ちは整っているし、出るとこも出ていて明るく活発。学校でも男子に大人気だ。こう言うと勘違いされるかもしれないが、オレも同級生の中ではダントツで可愛いと思う。
―――だが、ある人には勝てない。
高校から10分ほど歩いた。
いつも通り亀有公園の前で別れて帰りかけた時、真奈が、おーいと呼びかけてきた。得意げな顔をしながらオレに、
「ホントに来ないんだぁ。ざ〜んねん、今日はあーちゃんが今からご飯作るのにn」
「行きます」
自宅に向かっていた足の方向をすぐに変え、先ほどまでの歩くペースより明らかに素早く歩く、いや既に全力で走りながら真奈の家に向かっていく。
―――今日はアスカ姉さんに会える!
「ちょっ、速っ。ホント真司はウチの"姉"好きだよねぇ」
苦笑いしながら歩き始めた真奈の言葉を聞き流し、2分ほど走ると真奈の家に到着した。
「まだ………来てないか」
「あれ?真ちゃんじゃん!どしたの?今日ご飯食べに来たの?」
後ろを振り向くと、とんでもなく容姿と服装の整った女性が、財布とスマホを片手に、サングラスをして立っている。
「今日も仕事お疲れ様、アスカ姉さん」
「へへっ、ありがと〜」
この人が初恋の人。
4歳の時の花火大会の日、まだ幼稚園の年少の時だ。待ち合わせ場所で真奈の隣にアスカ姉さんは立っていた。赤と青の金魚の絵が散りばめられた白の浴衣姿。あんな素敵な姿を忘れるはずがない。あの日からもう10年以上片想いしている。
今は芸能界きってのモデルとして活躍していて、平日はほとんど帰りが遅く、今日は平日としては珍しく早上がりだ。
「今日の撮影担当のカメラマン。注文多くてさぁ〜、もうリテイク何回やるんだしって感じだよ〜」
はぁ〜やだやだと、片手で頭を抱えて愚痴を零しながらアスカ姉さんが家の鍵を開けた時、真奈がちょうど綾瀬家の門に到着した。
綾瀬家に入り、真奈とダイニングルームで談笑をして30分程が経つ。台所から、お腹を空かせた部活生たちの食欲をそそる揚げ物の匂いがテーブルまで届く。
「腹ぺこの学生たちよ、お ま た せ♪」
「おおおおおおお!」
オレと真奈が声を揃え興奮する目の前のテーブルに、大皿いっぱいの唐揚げとヤンニョムチキンなど料理がたくさん置かれた。そして、オレ用のご飯茶碗にはご飯が日本昔ばなし盛りに盛られている。
「それでは、ボナペティ〜」
「いただきます!」
2人揃って、アスカ姉さんの手料理を一心不乱に食べる。
―――ホントに美味い。
また唐揚げを箸で取ろうとした時にふと前を見ると、両肘をついて手のひらに顎を乗せながら、嬉しそうにオレを見て微笑むアスカ姉さんと目が合った。
思わず唐揚げを取り損ねる。
「どう?美味しいかな?」
「最高に美味いよ、この大皿もう1皿分はいけるね」
「お?言ったなぁ〜、おかわりまだまだあるから」
全くカッコよくも無い唐揚げまだまだ食べれますアピールをしながら、フフンと胸を張るオレを見て、クスッと笑ったあと、アスカ姉さんは飲み物を取りに立ち上がった。
ご飯を頬張りながら後ろ姿を目線で追い、ふと思う。
―――ホント、アスカ姉さんが彼女だったら
「毎日食べれるんだもんなぁ、デヘヘ〜でしょ?」
「んなっ」
ガタタッと物音を立てながら少しのけ反る。隣で真奈が悪戯な笑みを浮かべていた。
「思考読むなよ」
「美味しいとか言ったあと、鼻の下伸ばしてあーちゃんのこと目で追ってるんだし予想つくでしょ、そりゃあまぁ」
こんなバレやすいならちょっと気をつけないと………
「でも、15歳差じゃん」
ボソッと右隣で真奈が言っていたのが聞こえたかと思えば、逆側からてんこ盛りにリセットされた唐揚げの大皿が目の前に置かれていた。
「よろしくね☆」
「………おうよ」
そうだ、アスカ姉さんと付き合えるまでそりゃあ順風満帆にはいかない。これは試練だと思いながら唐揚げの山と戦う。
15歳差なんて知らない、オレは絶対に真奈の"姉"綾瀬明日香と付き合う男になる。
好きになったのは友達の姉………のはずだった 市川京夜 @kichiben
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