予鈴

三田冬毛

予鈴

飲み込んだ心が繁ってゆく夏だ花の速度で乗り越えてゆく


ト書きの場面だと思う 口を開けてはまた閉じて(短い沈黙)


彫刻刀で傷付けた指を突風にさらす火球がわたしにもある


振り抜けば宿るだろうかあなたにも胸にとどめるほうが良い月


「とこしえ」と呟きたくて目伏せれば儀式のようにあそぶ指先


失えるものばかりだった風のない夜の甲板としての踊り場


潮騒のように話すのですね 宿命と運命どちらに戸惑う


あまりにもさびしい。夜の甲板でこれからいのちのはなしをしよう


曲線に沿わせるようにできている唇 ソルダムならばよかった


灼け落ちてばかりだ心は夕立を待っているのに煙ってばかりだ


読点を打てないままでどの夏も均しく沼にかいつぶり住む


稲妻を飼うことにして鼓動とは誰かを呼んでる明け方のゆめ


堤防に打ち付けられて水の尾は失くしたピアスのようなまたたき


短冊を結ぶ手つきで外される釦にひとの星座を思う


深く空を吸いこめ 海に張り出した窓にすべてをおさめるように


一日花めでる気持ちで見送れば日付だけが正しく並ぶ


波のまま波をとどめておけず脚差し入れて銀の枷をつくる日


最果てと名付けたくなる雲そしてどの鳩もみな持つ瑠璃の色


ためらわず神話に折り目を付けて閉じとおい真昼の予鈴がとどく


戻れないところとは何処 遠景のように蚊取り線香落ちゆく












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予鈴 三田冬毛 @yukinoyama

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