ephemeral

鈴木雀

ephemeral

裏庭の番人さんはいなくなり綻んでゆく蝶つがいたち


ふたりしか乗れない舟に収まって雨のしずくと雪のひとひら


底なしの沼にすすんで掬われてヤモリの舌のように冷たい


心臓の一番奥をくすぐられだいじな翅をひらいてしまう


しゅうしゅうと糸吐くように抱き合ってロールキャベツは蝶の食卓


銀のラメまぶされている白葡萄ありのままでは光らないから


蜘蛛の巣のキャンディ口に含んだらきみの和毛にしたたる唾液


その赤毛くるくる巻いてナポリタンスパゲッティのように占う


催花雨の滲んでしまう朝だった地下の世界に降らないはずの


朝霞ほのかに泣いた公園の桜まぶしい街にまた住む


スプーンで雲間を分けて掬いだす皆既月蝕みたいなプリン


七夕の飾りをいくつくぐっても雛を抱えて帰れなかった


聖少女 棘の涙を流すのは盗人のほう 苺は荊


胡桃を噛むしかできないのに上手ではなかったけれど 親と思って


花嫁を肖像の中閉じ込めて真っ白だった怪物のゆめ


永遠の少女でいてと願われて繭から出ずに煮られる蚕


艶やかで大きな花が似合うけど精いっぱいを束ねてあげる


からあげをとんとん寝かしつけている愛されやすい彼女のフォーク


鳥曇り窓を眺めて十年後、嫌いな人が数えきれない


後悔の詰まったままで母になり解体される薄羽蜉蝣

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ephemeral 鈴木雀 @suzumesuzuki

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