第六章

第22話「華の後悔」

(あああああああ……)


 華は、机に突っ伏して項垂れた。やってしまった。定期テストの結果は散々で、母親に烈火の如く怒られた。当分ゲームは禁止だろう。


(でも、いいか。何もする気、起きないし……)


 テストの結果が、散々だった理由は分かっていた。信じられないくらいに、勉強に集中出来なかった。こんな事は初めてだった。自分から、集中力を取ったら何もないのに。


 全ては因果応報だと、華は顔を手で覆った。もし、あの日をやり直せるならと頭をよぎったが、そんな事は現実では無理な事は分かりきってる。ここはゲームの世界じゃない。リセットなんか出来ない。


 ずっと、あの日の翔太の事が忘れられない。忘れたい……知らなかった頃に戻りたいと、華は何度も何度も願った。


 ふと窓の外を見やると、外は陽が暮れ始めていた。その時、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「華、起きてるか」


 父親の声だ。ずっと部屋に篭りきりなので、心配してるのだろう。


「今日、近所の神社でお祭りがあるみたいだぞ。気晴らしに友達でも誘って行ってきたらどうだ。リンゴ飴でも買ってきたら、母さん、機嫌直すかもしれないぞ」


 そんなに簡単なものではないと思うけれど、その父の気遣いがなんだか、嬉しくて、居たたまれなくて、華はうん、分かったよと今込められる精一杯力で返事をした。



***


 華は、久々に外の空気を吸った気がした。神社の方へ向かう程、人は増えていった。屋台が沢山出ており、皆んな浮き足立っている。


 本来なら、自分もお祭りごとは好きな方だ。でも、今は周りの様にはしゃぐ事が出来ない。


(こんな風に、思う事なかったのに)


 華は、自分がすっかり変わってしまった様に感じた。賑わう人々の中にいると、華はより一層孤独を感じ、身震いした。華は群衆を避ける様に、いつの間にかあの公園に来ていた。


 神社から離れているせいか、公園はひっそりと鎮まりかえっていた。まるで貸切だと、華は昔を懐かしくなり、年甲斐もなくジャングルジムに登ってみた。


(昔は、もっと高いと思ってたのに)


 幼児用にあつらえられたその園具は、高校生になった自分には、とても小さく感じた。


 気が付いたら自分もすっかり大人になってしまっている事に、華は唇を噛みしめ、俯いた。もしあの頃のままでいられたら、こんな風に今悩んだりしてないのかもしれない。


(戻りたい。戻りたいのに、もう)


「華?」


 その時、聞き覚えのある声がした。華は、ギョッとその声がする方に振り返る。今この世界で、一番会いたくない人がそこに居た。


つづく

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