【完結】遠くて近きは幼馴染

カムナリオ

第一章

第1話「深夜0時の悲劇」

 仁科華にしなはなは、0時ちょうどから配信されるゲームをダウンロードする為、自室のベッドに寝転んで、携帯ゲーム機を握りしめ、待機していた。


 待ちに待った、新作のゲーム発売日。

 当然パッケージ版も購入してはいたが、家に届くのは明日の朝以降だ。明日は普通に学校もある為、届いてもすぐにはプレイ出来ない。


 寝る前に少しでもプレイしたくて、ダウンロード版も購入していたのだ。


 0時になり日付けが変わった。

 華はすかさず、ゲームのアイコンを選択し、ダウンロードが開始されるはずだったが。


 同時刻、もの凄い爆音と共に地響きが部屋中に伝わり、部屋が真っ暗になった。


(……え?)


 華は、暫く何が起きたのか分からなかったが、数秒後、雷が落ちた為、家が停電したのだと理解した。


 今日は夜から外で雷の音が凄かったが、まさかそのせいで停電するとは、しかもこのタイミングでと、華に絶望感が押し寄せてきた。


 華がベッドの上で悶々としていると、数分後、パァッと部屋の明かりが点いた。


 ホッとして、華はゲームのダウンロードを再開させようとしたが、ゲーム機とwifiが接続出来ない。慌ててスマホのwifiを確認したが、こちらも死んでいた。


 華は嫌な予感がし、wifiルーターを確認したが起動しなくなっていた。どうやら先程落ちた雷のせいで、ルーター周りが壊れたらしい。


 流石にこれは自分には直せないと、華は途方に暮れた。華は自分の運のなさと無力さに、ただただ、絶望するしかなかった。


 人というのは絶望の底に落ちた時、冷静な判断が出来なくなる。思えば、あの雷が落ちた時から、華の不幸は、始まっていたのかもしれない。



***


(はあ。ネット繋がらないんじゃ、どうしようもないよね。明日パッケージ版も届くし、今日はもう寝よう)


 華はダウンロードを諦め、おずおずと布団を被った。


(……)

(…………)

(………………)


 全く眠気が来なかった。

 それでも、暫くは眠ろうと努力はしていたのだ。しかし――


「寝られるかっー」


 華は被っていた布団を蹴り上げた。

 やはり、こんな心理状態で眠るのは無理だったのだ。


 ゲーム発売が楽しみすぎて、前日ほぼ寝てないのも良くなっかった。とにかく、まともな思考回路が欠落しかけていた。


(家のネットがダメなら、どこか外のネット回線で……)


 すぐに浮かんだのは、二駅先にあるファミレスのwifiだった。ファミレスならダウンロードが終わるまでの時間、滞在していても怪しまれない。華は外の様子を確認しようと、窓を開けた。


 蛇の様な白い稲光が、空を走っていた。おまけに雨も降ってきている。


 もう深夜だ。田舎の終電は早いのだ。ファミレスに行くなら、自転車で行くしかない。この雷と雨の中を。最悪、自転車に雷が落ちるだろう。


(無理ゲー、すぎる)


 何で神様は、自分にこんな過酷な試練を与えるのかと、華は打ちのめされた。


 その時、闇に鎮む住宅街の片隅に、煌々と光が漏れる窓を見つけた。こんな深夜、大体のお宅は寝静まっているので、窓から光が漏れる事などほぼないのだ。その窓の家には見覚えがあった。


 昔仲が良かった、幼馴染の家だった。


 この時、華に悪魔的発想が降りてきた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る