第6話

    ×    ×    ×

  彪、着替えてスパイクを履く。

  視線の先にスタートブロックが二つ。

  幸太がブロックを調整している。

  幸太、彪の視線に気づいて、

幸太「用意できた?」

  余裕の笑みを向ける。

  彪、にらみつける。

    ×    ×    ×

  彪と幸太、スタート位置につく。

  美幸、スタート付近で笛を持ち、

美幸「じゃあ、いくわよ」

  彪と幸太、スタートブロックに足をかける。ラインに両手を構える。

  彪と幸太、お互いをチラリと見る。

美幸「よーい……」

  『ピッ!』(笛音)

  彪と幸太、勢い良く飛び出す。

  幸太より先に彪の体が前へ出る。

美幸「嘘、幸太よりスタートが速い!?」

幸太「…やるね」

  十五m付近まで彪が引き離す。

  幸太、ニヤリと微笑み、ぐんぐんと彪に追いついていく。

彪「……!!」

  彪の上体が起きた頃には、幸太はすでに遥か先に。

彪のM「なんだ、あいつの走り方」

  その一瞬……彪には、幸太の背中が遠く、しかしそれは大きく見える。

  ホッとする美幸だが、

美幸「でも、あの子の瞬発力……」

  幸太、続いて彪がフィニッシュする。

  彪、肩で息をしながら幸太を見つめる。

  幸太、涼しげな顔で、

幸太「僕の勝ちだね。でも、キミさ、イイもの持ってるね!」

  手を差し出し、握手を求める。

  彪、その手を払う。

幸太「……!?」

  彪、視線をそらして、

彪「くだらねぇな」

  幸太、眉間にシワを寄せる。

  美幸、その光景を見てカチっときて、

美幸「ちょっと、あなたスポーツマンシップってもんが!」

彪「知るか」

  美幸、怒りが爆発して、

美幸「うもー、こぉの~」

幸太「ね、ネェちゃん!」

  彪につかみかかろうとする美幸を抑えて、

幸太「黒崎 彪、今日は一緒に走れて良かったよ。キミさ、磨けば凄いスプリンターになれるかもね」

彪「……」

幸太「また、一緒に走ろうな」

  彪に笑顔を向ける。

  唇をかみしめる彪。


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