第4話
□総合病院・外
きれいな外観の病院だ。
快晴の空のもと、芝生で気分転換している患者と付き添いの看護師達がいる。
□同・待合室
足首にテーピングをしている美幸がソファーに座っている。
美幸、ハンドバッグを腰のそばに置いて、陸上雑誌を開いている。
『無敵、春日幸太(17)。100m、200m、400m、三冠! さらなる挑戦へ』と大きな一面だ。
美幸、微笑みながらページをめくる。
すると向かいの診察室から怒鳴り声が。
彪の声「ふざけんじゃねぇ!」
ざわつく待合室の患者達。
美幸、診察室を見る。
□同・診察室
彪、医者の松山の胸元につかみかかっている。
彪「いつ目覚めるか分かんねぇだと!」
隣の若い看護師、怯えて固まっている。
彪「頼むよ、先生。なんで、あいつだけ……」
松山「できる治療は全て施しています。脳内に重い症状は見られませんでしたが、ただ、頭を強く打っているので意識障害があり、まだ昏睡状態が続いています。あとは、あの子の、小倉さんの意識が戻るまでは」
彪「……」
ボードにかかってある脳のレントゲンに目をやり、グッと堪える。
□同・待合室
患者達、鎮まる診察室にホッとする。
彪、診察室から出て来て、
彪「くそっ」
ムッとした剣幕で廊下を歩いていく。
美幸、彪を目で追う。
美幸「(小声で)あの子……!」
ハンドバッグに手をかけ、彪を呼び止めようとするが、事務員のカズコに、
カズコ「春日さーん、春日美幸さん」
美幸、止められて、
美幸「あ、はーい」
彪を気にしながらも会計所へ向かう。
□同・外
美幸、ハンドバッグを片手に病院を出る。
近くの中庭ベンチに座っている彪、そばに止めてあるバイクの姿を見つける。
美幸「あっ」
彪、ジュースを片手に頭を抱えている。
□同・中庭ベンチ
美幸、彪に近づいていく。
彪、美幸に気付く。
美幸、立ち止まり、
美幸「あんなに荒れちゃって。偶然ね」
彪「……(構わずジュースをパシュッ)」
美幸「何よ、その態度。感じ悪い」
ため息ついて彪の前に立つ。
彪「何だよ」
美幸「何って。コレよ」
バッグからキーホルダーを取り出して見せる。
彪、それを見て驚き、
彪「これ! どこで?」
美幸「今朝、道路に落ちてたのよ」
彪、キーホルダーを受け取る。
彪「あん時か…ありがとう」
美幸「いいえ。でも、彼女から貰ったもの置き去りにするのはどうかと思うけど? 黒崎…トラ君?」
彪「アキラだ。しかもこれ、ヒョウって漢字」
美幸「え、ごめん。へー、そう読むんだ」
彪「それに、そんなんじゃねぇよ」
美幸「えー、でも、ここんとこに……」
キーホルダーを触ろうとする。
彪、美幸の手を振り払って、
彪「触るな。てか、どんだけ聞くわけ?」
美幸「別にいいじゃない。わざわざ持ってきてあげたんだから」
彪「どうせグーゼンだろ」
美幸、カチンときて、
美幸「(小声で)こ、こいつぅ……」
ひきつる表情を抑えながらも、キーホルダーをいとおしく見つめる彪に、
美幸「(小声で)ふーん」
彪、美幸の視線に気づいて、
彪「なんだよ」
美幸「なんか、意外だな~、って思って」
彪「どこが」
美幸「可愛い物好きなところ」
ニヤリと微笑む。
彪、赤くなって、
彪「か、関係ないだろッ」
美幸「あんたには」
彪「……!?」
美幸「でしょ? ふふーん」
彪、勝ち誇っている美幸を見て、微笑む。
彪、立ち上がり、
彪「ねえ、一緒に走らない?」
美幸「えっ?」
彪「なんで、あんなキツい事してたの? ジョギングとかさ」
美幸「?」
彪「こっちの方が楽だし、気持ち良いぜ。一緒にどう?」
バイクに手を置く。
美幸、少し噴き出して、
美幸「ふーん、そういうナンパもあるんだ」
彪の鼻を指ではねて、
美幸「大人をからかうんじゃない」
立ち去ろうとする。
彪「ってぇな、別にそんなつもりじゃ」
美幸の後ろ姿を見つめる。
美幸、立ち止まり、
美幸「あなたは、何のために走ってる?」
彪「え?」
美幸「私はね、自分の力で走るのが好きなんだ」
振り返り、彪に満面の笑顔を見せる。
美幸の笑顔に見とれる彪。
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