22話怪人の理性
宇宙歴4993年6月27日 18:02
小惑星:ホシ 音無屋敷 ワインセラー
2番目の太陽が沈むまで後58分
使用人「…このワインはこの前、旦那様が気に入っていたからもう2本仕入れておこう。
後今日、旦那さまに出すワインもついでに取り出しておこう」
ワインセラーで仕事をしていた使用人はそう言ってワインセラー唯一の入り口から背を向ける
白「……」
この屋敷の使用人の一人
白 鳴木こと怪人と思われる白は音も立てずにワインセラーに入ると
その背中を見て思わず涎を垂らしそうになる。
そしてそれをごくりと飲み込むと
背を向けた使用人に手を伸ばした。
_______その時だった
白の背後から小さな手が彼の腕を掴む
白「!君は…!」
兎丸「アリスくんの言った通り。一人で仕事してる使用人の情報が耳に入ればすぐにでも襲いに来るって。」
アリス「今日、本来人間を襲う時間帯に兎丸にベッタリ張り付かれてしかもそのことは周囲の使用人も知ってた。
だからもし兎丸を襲えば疑われるか、それはしなかった。
つまりまだ人間を襲えてないってこと。
掃除以外の時間でもチャンスが巡って来れば焦って乗ってくると思ったよ。」
ワインセラーの入り口から顔を出したアリスはそう言った
白「うさ、ぎちゃん??それにアリサさん?」
兎丸「ごめんね。私の名前は兎丸で対怪人用アンドロイドなんだ。
そっちはアリス君、私のバディ。」
白「…なるほど…まんまと、嵌められたわけか」
アリス「あぁ、千夜さんにお願いして使用人の何人かが一人で仕事をする環境を作ったんだ。
そうすれば襲える人間の数は増えるし
襲われた後の犯人探しの容疑者も増えるから。」
使用人「すまんな、白」
囮になった使用人はそう言って罰が悪そうに謝る
白「もしかして一人で仕事をする人間のいる部屋がワインセラーだったり旦那さまの部屋だったり貴重品が多い場所だったのもお前の考えか?」
兎丸「え!?何それ!私知らない!」
思わずアリスのいる方方向に首をブンっと回して振り向く。
アリス「お前には言ってなかったっけ?それも千夜さんに頼んでたんだ。
"この屋敷の怪人はおそらく悪意じゃなく本能的に人間を襲わざるおえない根はいい奴だから旦那さまの大切なものが置かれた部屋なら捕まえる時に暴れないだろう"って」
白「……その通りだ…全く情けない話だぜ。」
白は先ほどまで兎丸に抵抗しようと力を入れていた腕から力を抜く
アリス「…んで、機織さんはお前たち話がしたいらしいけど…どうする?」
白「もちろん応じるよ。」
___________________________________
場所は移り
音無屋敷 応接室
機織「…ここに君が来たということはやはり怪人なんじゃな…」
机に向かい合って座る機織と白
それを見守るように壁際に立つ千夜、雪、兎丸、アリス。
白「えぇ。…改めまして…俺は、怪人…名は白狗(しろえぬ)と言います。」
機織「白狗…そうか、それでなぜこんなことをしたのか聞いても?」
白狗「…初めは悪意を持ってこの屋敷に入りました。
ここにはいろんな惑星の人間がいて、宇宙征服をする上で星々の人間の生態を知るには効率のいい場所だったから。
ですが人間達と時間を共にしているうちに俺の人間に対する悪意は随分大人しくなり…いつのまにか宇宙征服を目論むほどではなくなりました…
それでもなお人間に対する悪意は残り…人を食らいたい。恐れさせたいという本能はここ最近でついに抑えられず……」
雪「結果、人間を味見するような行為を…か」
白狗「……はい…それで、俺のことは怪人研究所に連絡してください…」
機織「!…君さえ良ければわしが使用人達を説得して引き続きここで働けるよう手配もできる…その人間に対しての悪意も何か対策を考えよう」
機織はそう言って話を持ちかけるが
千夜「私も!私も白狗さんは同じ使用人としていてほしいでございまする!」
千代もそれに賛同する
兎丸「うーん…うーん…?」
兎丸はそれを聞いていてずーっと首を傾げている
アリス「何唸ってるの??」
兎丸「いや、人間と一緒にいて人間への悪意が薄れるならこのままいたらそのうち人間への悪意が完全消滅するんじゃないかなって!
それならやっぱりここにいた方がいいんじゃない?
怪人研究所の更生施設に出入りできるけ
その他は安全面を考慮して対怪人用アンドロイドしか入れないから人間との関わり減っちゃうよ?」
アリス「なるほど…それは一理ある…」
兎丸「機織お爺様はここにいていいって言ってるしそれを望んでるんでしょ?
それに白狗君は悪い奴じゃないってわかったし。」
そう言って兎丸はピンっと人差し指を立てる
白狗「いえ、俺が望むのはここからさること
ダメだと分かっていたのにもう少しここにいたいと……甘えて、自ら立ち去ることができなかったのも皆を怖がらせてしまったのは事実…
今ここで貴方の手で追い出されることによって
そうすれば人間の信用を裏切り恐怖を植えつけた代償を少しでも支払えるかもしれない。」
白狗、そう言って機織達の提案を断った。
アリス「(……ずっと苦しかったんだ…この怪人は本能的に人間を襲いたいという気持ちと…人間を好きになってしまったという理性の狭間で……雨男や御影もそうなんだろうか…)」
アリスは心の中でそう思った。
アリス「……じゃあひとまず怪人研究所の職員を」
王子「いや、その必要はないよ。」
いち「ちょうど牧場に野良の中級怪人がいたんでな。こいつは悪意100%だったのでついさっき怪人研究所に連絡を入れた」
そう言っていちはズタズタになった中級怪人を引っ張ってきた。
アリス「そうか…(ていうか資産家御用達のアンドロイドつーからもっと丁寧な戦い方すると思ったらそうでもないのかよ…)」
伸びている中級怪人を見てアリスは思わず冷や汗をかいた。
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