レモンフェア

牧角うら

レモンフェア

ファミレスの壁にもたれて待っているきみは手足を持て余しつつ


二秒だけ眺めてそっとまばたきを絵画を胸に仕舞うみたいに


ふたりして迷ってばかりレモンフェアメニューの黄色あかるい午後に


大きいというよりでかい窓の外 犬を見つけて教えそびれる


シャーペンをくるくる回す癖のことドリンクバーは炭酸ばかり


香ばしい匂いの左肩に顔うずめて笑う夏の永さよ


心臓はきっと熱いね守りたいなどと本気で思っているね


日焼け止め分けてあげればうれしそう次の街灯までの夕闇


ぱんぱんの鞄を肩に軋ませる白シャツの背がふとこわくなる


少しだけ見上げる角度 さらさらとこぼれるほうの記憶だろうか


手をつなぐだけが愛とは思わない短い髪をふざけて撫でる


凪の町 「絶対守る」じゃないことをきみの長所に数えてしまう


清潔な儀式のように自転車を挟んでふたり畦道あるく


どこまでもきよく・ただしく夏の田を星がまばらに散らばっている


しろたえのセーラー服の角ばった襟をばさばさ揉んでゆく風


シャツの釦いちばん上まで留めているふれてみたけどそれだけだった


歯を立てるなら喉仏・夏の肌 きみをほんのり不幸にしたい


コンビニのアイスクリーム分け合って いっそ嫌ってくれてもいいと


将来はちかい未来のこときみの舌が大きく舐めとるバニラ


犬みたい、微かにきみをかろんじて生き延びていた季節も過ぎる

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