1-2 テンプレから外れたら一体どこまで転がり落ちるのか

 事の始まりはホント突然でしたね。

 下校してたはずが、気付くと草原に立ってたんです。まさしくザ・テンプレって感じで。

 真っ赤で綺麗な大きい夕日は今でも忘れません。


 でもその太陽の大きさで気付けましたよ。「あ、ここ異世界じゃね?」って。


 まぁなんかそう口に出すと?ご都合主義世界になるって謎ジンクス聞いた事あったんで。

 折角だからと、そう叫びつつ周りを見回してみたんです。


 するとね、やっぱりいたんですよ。デカ狼が。

 それもしっかりこっち見てて。


 そう、転移後に発生する「いきなり戦闘パターン」ってやつです。

 ここまでしっかりテンプレだったっていう。


 とはいえ正直勝てるとは思いませんでした。ビビりでしたからね。

 こちとら武器もチートも無いし、神からレクチャーを貰った訳でもなかったんで。

「いやいや無理だろ」って。


 けど正直、怖くても期待はありましたね。

 テンプレ通りなら、こんな時は大抵助けが来るもんなんだって。


 うん、その期待通りでしたよ。


 直後、どこからか矢が放たれましてね、射られたデカ狼はいとも容易く倒れてしまって。

 そんでもって振り返って見れば女の子が立っていたんです。

 とても可愛い子でした。


 セミロングのブロンド髪で、俺と同じくらいの歳の。

 軽装の皮鎧を身に纏って、大きな弓を携えててね。

 風に靡かれた姿が綺麗だったなぁって今でも思い出せます。

 

「君、大丈夫!? まったく、武装も無しでこんな所まで来て。危ないじゃない」


 最初のセリフもしっかりテンプレでしたけどね。

 けどそのお陰で救われたのは確かです。


 だから信じて良かったのと、用意されたシチュエーションに喜びもしました。

 「ありがとうございます!」ってお礼を言いつつ、しっかり勢いで手をギュッと出来たのはいい思い出です。


 ただね、その後はもう……テンプレじゃなかったんですよ。


 普通ならこう、待ってるのは『ドッパァァァン!!』じゃないですか。

 平手打ちとかされて、「なにすんのよー!」って怒られたりで。


 でも手を握った途端にね、なんか彼女が赤らめたんです。

 まるで恥じらい知る清純乙女って言わんばかりに。

 それも別段嫌そうって訳でも無く、それどころか握り返してきてて。


 んで気付いたら二人とも黙ったまま手をニギニギし合っていた訳です。


 ドッキドキでしたね。ついついイヤラシイ笑顔を零すくらいに。

 やっぱ理性ってこういう時は制御出来ないんだなぁなんて。


 彼女もどうやら一緒のようでしたけど。


「あ、あの、ここは危険だし、近くの街まで連れて行ってあげよっか……?」


 はい来ましたーチョロインですー。


 もうね、とろんとした顔を浮かべてこんな事言うんですよ。

 まるで既に恋人同士みたいな感じで。

 こうなるともはやチョロインもいいとこですよね。瞬殺過ぎてこっちが戸惑うくらいです。


 まぁ何にせよ誘いに乗らない理由も無かったので、ついていく事になりました。


 そしたら辿り着いたのはなんと宿屋前。しかも勢いのまま彼女の借り部屋に直行ですよ。

 展開速過ぎると思いません?


「ふう、何だか……暑くなっちゃったなぁ。ねぇ、君もそう思う、でしょ……?」


 だけど、もう俺も興奮しっぱなしで止まりませんでした。

 何せ彼女がもうノリノリで装備脱ぎ始めちゃって。

 こっちチラチラ覗きながら下着とか見せたりしてきちゃって。


 完全に誘ってやがる!? みたいな。


 普通のラノベ主人公ならここでは「え、遠慮しときますぅ」みたいに言うんでしょうけどね。

 俺はもう止まる気さえ無かったもんでガン見でしたわ。


 そうしたらもう俺も彼女も火が付いちゃって、途端に互いに服を脱がせ合い始めたんです。


 当時の俺には当然恋人なんていません。

 それどころか女の子とろくに話した事もありませんでした。

 けどずっと可愛い子とイチャるのが夢で、早くDTも棄てたいって思ってたんです。


 そしたらこのシチュですよ。

 スルー出来る訳が無いでしょお!!


 胸なんて興味無いね!!

 俺は行くよ、モザイクのその先に!!!

 目指すはヒミツの花園、ただそこだけなのだからッ!!!!!




 だが彼女のパンツを脱がした時、俺は強引に現実へと引き戻されたんだ。




 待って、何か付いてるんだけど!?

 彼女の股間に妙なモノが伸びてるんですけど!?


 それも一本だけじゃなく沢山と!! 短いのがわらわらとォォォ!!?


 ――そうですね、たとえるなら海のイソギンチャクみたいな。

 あの触手みたいなのが生え揃ってたんです。


 それも先端が青っぽくて、なんかうねってたんですねー。


 「なんだこれ」って声が脳内に何度も響きました。俺の知っている女の子の股じゃないって。

 まぁ実物見た事無かった訳ですけど。


 するとそんな時、とうとう彼女が俺のパンツを脱がせていて。

 それでもって現実が全てを無に還してくれました。


「――んだよ、お前女かよ紛らわしい!! しかも一本しか無いとかダッサ!! 同性単一の癖に誘ってくんなクソがッ!!」


 直後、こんな罵倒を浴びせられました。

 ついでに唾も吐きかけられて、部屋からも裸のまま叩き出されたっていう。


 最悪でしたね。何も知らないまま剥かれて放置とか最悪のスタートですよ。


 そこで俺は気付く事になります。

 そうだよね、異世界だもんねって。


 そう、異世界人が地球人と全部同じであるとは限らないんです。

 でも言葉通じてたし、大きな胸もあったから疑ってなかったんですよ。

 生態そのものが現代人とまったく違うって事にね。


 これは後々調べてわかった事なんですが、この世界での生物の生殖行動はとても『植物的』でした。


 男性が『花粉』を吐いて、女性が股間で受け取る。

 その後、女性が『配合種』を造る。

 そして『配合種』を男に返す、だそうです。


 つまり男性育児系の生物だったんですねー。


 おまけに言うと貞操概念が薄く、生殖欲求がやたら強い。

 なので今回みたいなパターンはザラだったようです。

 その証拠に、この後も俺は何度か同じ目に遭いました。もちろん結果も同じ。


 だからもう俺は諦めましたね。

 この世界でDTを棄てる事なんて到底不可能なんだって。


 幸い、転移した理由はすぐわかりました。神と交信する機会があって。

 なんでも【大いなる闇】を討ち倒して欲しいのだそうな。

 それが出来れば願いを叶えてくれるとも教えてくれて。


 だからもう目的を遂行する事だけに集中すると決めました。

 修行僧の如く邪念を振り払って。単に、元の世界へ帰る為にと。

 だって、こんな世界に居続ける意味まったく無いじゃん?


 けど、ここからは地獄でしたね。

 なんたって俺の下には美少女ばかりが集まってくるんですから。


 フェロモン的な物が溢れてたのかな。

 おまけに皆飢えてるんで、平気で夜這いとか連日の如くやってくるんです。

 なのでまともに眠れた日はほとんど無かったですね。


 しかしそれでも目的の為の仲間は必要です。

 だから必死でしたね、彼女達を幻滅させずに仲間として率いるのは。

 俺の股間見られたらその時点で一発解散確定ですし。

 かといって【大いなる闇】は一人では絶対に倒せないらしいんで。


 ちなみに必要な仲間の人数は一〇八人。俺以外全員美少女、全部俺にベタ惚れです。

 この辛さ、想像出来ます?


 いっさい落ち着けませんよ。

 毎日が苦痛です。ハーレム地獄です。


 とはいえ最後の方はもう慣れたもので、仲間達を引き連れて最終決戦へ。

 そして俺は遂に【大いなる闇】を倒す事に成功したんです。


 いやーもーそこからは速かったすねー。


 闇が倒れ、封印されていた大精霊が現れた瞬間、俺は速攻で願いました。

 「元の世界に帰してくれ。今すぐに」と。顕現し終えるのも待たずに。


 これは大精霊も戸惑ってましたね。『えっ? もう? ええっ!?』って。


 けどまぁ願い通り元の世界に帰してもらえました。

 もう地位も名誉もどうでも良かったんで、後は残った奴等で勝手にやってくれと。


 仲間が心配かと言われたらそれはNO。

 あんな貞操概念の無い異星人世界はもうこりごりなんだってね。


 ハーレムモノの主人公がヒロインに手を出さない理由、良ぉくわかりましたよ。

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