外伝 ゲーム堕天録ミアちゃん①
『ミアミア、これやってみてー』
ある日、真夜さんからパソコンゲームのジャンプクイーンというソフトをいただいた。
内容としては、伝説のイケメンがいるという頂を目指し、ジャンプクイーンが上へ上へと登っていくだけの単純なものだという。
問題はその難易度だ。
一度失敗すれば下手したらスタートラインに戻されることから、攻略を断念する人が続出しているという。
真夜さんも例に漏れず、まよラーさん達に勧められ開始したはいいものの、クリアできずに投げ出したという。
『悔しいからミアミア仇をとってー(泣)』
そう言って、ソフトをプレゼントしてくれた真夜さん。
貰っちゃっていいのかなとは思ったものの、本人がくれると言うのだから有り難く頂いておこう。
ふふふ、任せてください真夜さん。
俺のゲームリストには今のところミラクルパニーメンしか存在しなかった。
そこに、新たなるラインナップが追加されたのだ。
わくわくが抑えられない。
ポルターガイストを使ったコントローラー操作はまだ安定しないが、キーボード操作なら直接触れるから問題なくできる。
やってやろうじゃないかジャンプクイーン!
俺は意気揚々とクリアするまで終われない配信枠を取った。
【ジャンプクイーンをクリアまでやるぞ!】
『あ、これは』『草』『楽しみだ』『ジャンプクイーンかよww』『ミアちゃんにクリアできるかな?』『耐久枠になりそうだ』
「はい、というわけでジャンプクイーンやっていきます! ふふふ、楽しみだなー。難しいらしいね。果たして私相手にどれだけ保つかなー?」
『ドヤ顔草』『嬉しそうw』『この自信がいつまでもつか』『かわいいww』『ゲーム好きミアちゃん』『なんでそんな自信あるのww』
「ふふん、これでもゲームはそれなりにやってきたからね。みんなは失敗を期待してるかも知れないけど、そうは問屋がおろさないよ。あんまり早くクリアしちゃったらごめんね?」
『イキりミアちゃん』『泣かせたい』『フラグ』『フラグ立てるやん』『いい笑顔だ』『かわいすぎて笑う』
フラグ?
知らない子ですね。
まあ難しいと言ったところでクリア者が一人もいないわけでもない。
むしろ軽く調べたところ、有名配信者からも続々とクリア報告が上がっている
なら俺にクリアできない道理などない。さあ始めよう。伝説をな!
そしてゲームがスタートする。
お爺さんから話を聞いて、上へ上へと登っていく。
どうやらキーを押す時間でジャンプの強弱が変わるようだ。
少し癖があるが、慣れればそう難しくはない。
小さな失敗を挟みつつ、順調に進んでいく。
『上手い』『イキルだけある』『まあまだ序盤』『いいよいいよー』『さすミア』『落ちろ!』
「落ちないよ! ふっふっふ、ミア友にちょっとカッコいいとこ見せちゃったかな? あ……」
言った途端、ジャンプが強すぎたのか、目標を通り過ぎて落下していく自キャラ。
「あ、あ、あ……」
何故か足場をスルスルとすり抜け、哀れジャンプクイーンはスタート地点まで落下していった。
『草』『草』『おかえり』『様式美で草』『はいフラグ回収』『喘ぐな』『ミアちゃん頑張って!』
落ちたことに反応してミア友のコメントが流れる。
スタート地点の爺さんが何やら喋っているが、煽りにしか聞こえない。
「ぐぬぬ、い、今のはたまたまだから! コツは掴んだからもう落ちないよ!」
『はいフラグ』『がんばw』『ミアちゃんは可愛いなあ』『落ちないといいねw』『ミアちゃんはすごいから大丈夫さ(棒)』
ぐぬぬぬ、バカにしてー。
序盤のやり方はもうわかっている。
素早く、しかし正確にリカバリーし、すぐに元の場所に辿り着く。
ふふん、どんなもんだい。
これでも男時代はあるゲームで
一度通った道は間違えないぞ!
しかし問題はここからだ。
第一の難所と言っていいだろう。
足場、高さの間隔ともに絶妙に難しいものになっている。
この距離、この高さならおそらくはこのくらいか?
意を決してキーを押す。
果たして、俺の操作するジャンプクイーンは、目標を遥かに飛び越え落下していった。
スタート地点まで。
『草』『おかえり』『草』『リプレイかな?』『ジャンプクイーン上手いですね』『ドンマイミアちゃん!』『お前らあんまイジめんなよw』『小学生にしては上手いよ』
うわあああぁあぁああぁ!!?
爺さんが何やら喋っているが気にせずジャンプ。
上へ上へと登っていく。
それから何時間続けただろうか。
何度落ちたのかももう覚えていない。
アッサリと終わらせるつもりだった俺の見込みとは裏腹に、配信はかつてない領域へと突入していた。
もはや意地だ。
落ちるたびに絶望に苛まれながらも、クリアせずには終われないという使命感、バカにされたくないという後ろ向きな気持ち、ミア友に褒めてほしいという顕示欲を糧に少しずつステージを進めていく。
気付けば朝がやってくる。
『まだやってて草』『おはよーミアちゃん』『がんばれ』『ゴールは近いぞ!』『おはみゃー』『もしかして余裕でクリアして今2回目ですか?』
「うう……ちくしょう……この氷がぁ……」
ドンドン上がる難易度。
滑る床、吹く風、シビアなタイミングを要求するギミックが俺を狂わせる。
付き合ってくれているミア友には感謝だが、耐えられずに落ちてしまったミア友も続々と復帰してきている。
それだけの時間、俺が手間取っているということなのだが。
何気ないおはようの挨拶が時間の経過を伝え、俺を苦しめる。
幽霊だから睡眠もトイレも必要なく、肉体的には耐久配信に向いているといえるかも知れないが、心は別だ。
ヒビ割れ、折れそうになる心を無理やり鼓舞する。
落ちては上り、落ちては上り、その度に俺の感情が摩耗していく。
そして、更に三十分が経過した頃。
俺はようやく最後の難所を迎えていた。
「はぁ……! はぁ! はぁ……!」
『息が荒くて草』『敗北者?』『目が血走ってて草』『がんばれミアちゃん』『もう少しだぞ!』『ここ大事』
手が震える。
コメントから、どうやらゴールが近いことがわかる。
失敗できない。
ここで失敗してしまったらミア友のみんなを失望させてしまう。
俺の心も持たないだろう。
折れる。折れてしまう。
そうなると、もう、ゲーマーは名乗れない……。
「嫌だ」
この力配分でいいはずだ。
いけるはず。自分を信じるんだ。
「失敗したくない」
俺はこの鬼畜ゲーをクリアして。
「ミア友に褒めてもらうんだあぁぁあ!」
『草』『かわいくて草』『いっけええええ』『うおおおお!』『いったあああ!?』
果たして、意を決して飛んだ俺のジャンプクイーンは。
無事にゴールへと辿り着いていた。
『おおおおおお!』『いったあぁあぁ!』『さすミア! さすミア!』『よくがんばったな』『ミアちゃんSUGEEEE!』『ミアちゃんやったあああ!』
ミア友の歓喜のコメントが流れる。
ゴールでは、いけすかない金髪ロングのイケメンが「君を待っていた」と言って立っていた。
普段の俺なら、こんなところで何を待っていたんだお前はバカかと罵るところだが、もはやその元気もない。
ただ呆然と画面を眺めるのみだ。
クリア……したのか?
『おめでとー!』『ミアちゃんよくやった!』『88888888』『すごかったよ!』『おつみゃー!』『さすがミアちゃん!』
内心を占めるのは喜びよりも安堵だ。
もう登らなくていい。
終わったんだ。
こんな地面に穴を掘って埋めるような作業、もうやらなくていいんだ。
俺はやり遂げた。
「み、みんな、ありがとう。みんなのおかげで私、私……なんとかクリアできたよ」
『声が弱々しくて草』『最初の自信はどこへw』『長い旅だったもんね』『でもタイムとしては早いほうだよ』『よく頑張った』
時刻を見てみると、配信を開始してから十一時間五十分が経過していた。
アーカイブが残るギリギリの時間だ。
かろうじて動画一つ分に収められたのか。
「うっ、ぐすっ……」
あまりの辛い思い出に泣けてきてしまう。
かっこわるい。
でも本当に辛かったんだ。
まさか耐久配信がここまで過酷なものだとは。
それでもやり切れたのはミア友のおかげだ。
みんなが応援してくれているからこそ、約十二時間にも及ぶ戦いをやり抜くことができた。
一人ではとてもではないが走り抜くことはできなかっただろう。
俺は鬼畜ゲーというものを侮り過ぎていた。
長い間付き合ってくれたミア友をこそ、今抱きしめたい。
俺はミア友のみんなに改めて感謝を伝えようとして、
『さあ、次は2面だ』『裏面あるよ』『ここまでチュートリアル』『次行こう』
容赦のないコメントに凍りついた。
「絶対やらない」
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