9 コラボするぞ
そして、あっという間にコラボの日がやってくる。
一応事前テストをした感じでは、問題なくビデオ通話することができていた。
ひょっとしたら俺が映らないこともあるのではと危惧していたが、少なくともテスト段階では上手くいった。
本番も大丈夫なことを祈るばかりである。
ちなみに、その際初めて真宵さんと話したわけだが……なんというか……その……非常に元気がいい人だなという印象だ。
俺が人見知りなせいかも知れないが、会話が弾むというよりは、向こうが一方的に盛り上がって、こちらはぎこちなく事務的な内容に終始した感じがある。
仲良くなるためにはこんなことじゃいけないと、終わってから一人反省会をしてしまった。
本番はもっと親しくなれるよう頑張ろう。
と、早速真宵さんから連絡がきた。
通話を繋ぐ。
『もしもしー、ミアちゃん? 聞こえるー?』
「はい、真宵さん、聞こえます」
『良かった、もうすぐ本番だね、前も言ったけど敬語とかじゃなくもっとフレンドリーな感じでもいいんだよ!』
「あはは、ど、努力します」
実際距離感はかなり難しい。
今世から考えれば年上の同性なのだが、前世で考えるなら年下の異性である。
向こうのテンションも安定しないし、イマイチ最適な関係が築けていないのが現状だ。
いけないいけない、今日はもっと仲良くなりにきたんだ。
いつまでも距離を置いたままじゃ進展しないだろう。
「え、ええと、じゃあ真夜さんって呼んでもいいですか?」
『!? いい、いいよ! 大歓迎だよ! 満場一致だよ! じゃあ今度から私もミアミアって呼ぶね!』
これだけ喜ばれると素直な好意を感じて嬉しくなる。
さらに、こちらもあだ名をいただいてしまった。
なんというか、こう、グッと距離が縮まった気がするな。
真夜さんとは今後も上手くやっていけそうな予感がする。
と、
『ーーーーーーない』
「ん?」
今、何か違和感を感じたような。
「真夜さん、何か言いました?」
『え? そうだね、ミアミアと仲良くなれて嬉しいって言ったけど。聞こえなかった?』
「いえ、確かに聞こえなかったんですが……」
そもそも全然違うことを言われたような。
気のせいか?
『回線が不調なのかな? もうすぐ本番なのになー。とりあえず、何かあっても私が何とかするからミアミアは気楽にお喋りしてね!』
「ありがとうございます、頼もしいです」
少なくとも、真夜さんは何も感じていないらしい。
それに真宵さんの言うように、もうすぐ本番だ。
今はそちらに意識を向けないとって、
「うわあ!?」
気付けば、口だけさんがすぐ隣に立っていて、思わず仰け反ってしまった。
何してるのこいつ!?
襲ってくる気配はなく、いつかのようにただジッとモニターを見ているように感じる。
その意識の先にいるのは……真夜さんか?
『ど、どどどうしたのミアちゃん!?』
「あ、すいません、口だけさんが急に傍に来たもので驚いちゃいました。ちょっと退かしてきます」
『あ、そうなんだね。混ざりたかったのかな? でも口だけさんは喋れないし、今日は私とミアミアのコラボだから、ごめんね』
律儀に口だけさんに向けて頭を下げる真夜さん。
その様子に興味を無くしたのか、俺が何をするまでもなく口だけさんは部屋の隅へと戻っていった。
なんだったんだ一体。
『じゃあ、ミアミア、開始後なんだけど』
それから、真夜さんと配信の段取りについて最終確認を行う。
と言っても今回やることはそう多くない。
一緒にお喋りをして、マシュマロを食べて、簡単なゲームをしてお仕舞いだ。
マシュマロについてはあらかじめ募集していたもので、どれを採用するか教えて貰っているので回答に迷うこともない。
そしてゲームについてだが、パソコンゲームのプラットフォーム最大手のアカウントを作って、そこで購入できるミラクルパニーメンというソフトを一緒にやることになっている。
アカウントは何とか作れたが、お金を持っていない俺では購入ができないと伝えたら、なんと真夜さんが購入してプレゼントしてくれたのだ!
本当に良い人だ。
甘えてばかりで申し訳ない気もするが、こういう場合、変に遠慮をするほうが気まずくなることも少なくない。
今は小学生ということもあり、俺は素直に礼をいい、プレゼントを受け取った。
幽霊になったことで半ば諦めていたゲームプレイ。それがまたできるとあってホクホクである。
先日はお互い固さが取れていなかったから、後日改めてお礼を言ったほうがいいかも知れない。
『よし、そろそろ時間だね!』
そしてついに本番がやってくる。
しかしこの何とも言えない空気。自分の配信とはまた違う緊張感がある。
「よ、よろしくお願いします」
『こちらこそだよ! じゃあ始めるね!』
『wktk』『くるー?』『この配信が終わったら俺まよまよと結婚するんだ』『ミアちゃん!』
待機所では既にコメントが乱舞している。
そして、真夜さんが画面を切り替えると、
『こんまよー! マヨネーズじゃないよ、真宵だよ! 元気いっぱい胸いっぱい、真宵真夜です!』
『うおおおお!』『きたあああ!』『まよまよー!』『好きだー!』『胸はちっぱいだけどな!』
『今ちっぱいって言ってたやつ後で覚えとけよ! さてみんな元気にしてたかな!? 知ってるとは思うけど今日はゲストに来てもらってます! ミアミアどうぞ!』
「は、はい、ご紹介に預かりました、幽霊JS配信者のミアです。よろしくお願いします」
『ミアちゃーん!』『こんみゃー!』『きゃー! ミアちゃーん!』『まじで透けてるやん』『ガチで幽霊?』『超可愛いじゃん』『まよラー困惑してて草』
うぎゃー!
緊張するー!
まさか他人の配信にお邪魔するのがこんなに緊張するものだとは!
『あはは、ミアミア固いー! もっとリラックスしていいんだよ!』
「そ、そうは言っても、真夜さんと違って私のことは初見の人が多いだろうし」
『真夜さん?』『そういえばミアちゃんのことミアミアって呼んでるな』『仲良さそうでホッコリ』『女二人、何もないはずもなく』『まよまよ良かったな』
『そうだよー! 良いところに気付いたね諸君! 私とミアミアは既にマブダチなのだ! どうだ羨ましいかこの野郎!』
「あ、あはは」
『羨ましい』『調子に乗るな』『調子に乗ったり乗らなかったりしろ』『俺も混ぜてくれよ〜(マジキチスマイル)』
既に視聴者の数は三千人近くなっている。
俺のチャンネルも最近は人が増えてきているが、同時接続は精々が千いかないくらいだ。
幽霊という人を集めやすい要素があってもそれなのだから、やはり真夜さんは配信者として俺よりかなり上にいると言っていいだろう。
それを伝えると、
『いやいやいや、私の配信も普段はこんなに視聴者いないからね。平均だと多分三百人行くかどうかってところじゃないかな? それを考えると今日ほとんどの人がミアミア見にきてる気がするね!』
「ええ!?」
八万人登録者がいても、視聴者ってそんなに少ないものなのか!
あ、そうか。俺の配信はアーカイブに残らないから、必然、生で見にくる人が多くなるのかも。
それとデビュー直後で話題になってる時期でもあるから、たまたま視聴者が多かっただけで、これが当たり前と思っちゃいけないのか。
うむむ、知らなかったとはいえ、いつの間にか慢心してしまっていたらしい。認識を改めないと。
『私もねー、本当はもっと普段の配信見に来て欲しいんだけど、なかなか忙しいみたいで、ねー、みんな?』
『目逸らし』『お、おう』『俺は毎回見てるで』『ミアちゃんを見にきました』『登録だけして放置する層もいるからなー』
なんとも難しい、配信者と視聴者の関係である。
『まあ何はともあれ、今日来てくれた人はありがとねってことで! じゃあ早速マシュマロ食べていこっか!』
「はい、よろしくお願いします!」
『マシュマロー!』『どんなのくるかな』『俺の採用されろ!』『クソマロこいっ』
『まず第一弾はこちら!』
【まよまよ、ミアちゃん、こんにちは! 早速ですがお互いの最初の印象を教えて下さい】
『まずいですよ』『あっ』『まよまよ死亡不可避』『まよまよの印象ww』『酷な質問をするな』
『なんだよーみんな!? そんな悪いことないでしょ!? ね、ミアミア!?』
「あ、そ、そうですね、はい」
思わず愛想笑いする。
かなりぎこちないものになったんじゃないだろうか。
『はい、このマロはここまで! 終了! 私が心に傷を負う前に終わらせよう! 質問ありがとうでした!』
『草』『終わらせるなw』『俺は好きだよ』『ミアミアから逃げるな』『ちゃんとやれや』
いかんいかん、つい本音が顔に出てしまった。
実際のところ、最初は少し困ったけど、今となっては悪感情なんて微塵もないのだ。
「えっと、元気の良い人だなとは思ったけど、そこまで悪い印象じゃないですよ。むしろすごく良い人だなって」
『ミアミア好き! 結婚しよう! お前らふざけんなバカ! これが人徳だから! おならプー介!』
『プー介ってなんだよw』『良かったなww』『ミアちゃん優しい』『ミアミアに感謝しろよ』『もっと慎みをもてw』
『ちなみに私の印象は可愛くて幽霊ってすごいって感じかな。これは是非お友達にならないとって思ったね!』
「そ、そういうの聞くと照れますね。ちなみに言うと、口だけさんもそうですけど、幽霊全般の印象が悪すぎて、普通に接してくれる人間ってだけでプラス評価です」
『それどうなのw』『草』『幽霊への好感度が低すぎるww』『そりゃいきなり殴られたり、意思疎通できない相手じゃあなw』
『幽霊世界って今のところ修羅の国みたいなイメージだもんね……。じゃあ次の質問いくよー! ドドン!』
【なんの動物が好きですか?】
『私は猫だね! 犬も可愛くて好きだけど!』
「えーと、動物全般好きなんだけど、あえて一つ選ぶなら犬かな?」
『犬いいよな』『配信者って猫好き多いイメージ』『口だけさん(犬)』『僕のことも飼ってください』
『じゃあ次の質問ー!』
【今後オフコラボの予定はありますか?】
『あー、私としてはやぶさかではないというか、ミアミアが良いなら是非やりたい気もするんだけど、ど、どうだろう?』
『どもってて草』『見たいー!』『そもそもできるのか?』『欲望を隠せww』
「私も興味がないわけじゃないんですけど……なんというかその、真夜さんって幽霊の姿が見えたり声聞いたりできる人だったり?」
『あっ!? ……見えない』
『あっ』『あっ』『あかん』『そういえば幽霊だった』『カメラ越しにしか見えないんだっけ?』『廃墟のカメラ以外には映らない』『廃墟のカメラ持ち運びはダメなんか?』
「カメラ持ち運び?」
その発想は無かった。
できるのだろうか?
確かにそれができるなら少なくとも出先で配信はできるかな?
そもそもあの廃墟以外でカメラが使えるのかとか、外に持ち出しても俺は映るのかとか、色々問題はあるが実験してみる価値はありそうだ。
『持ち運びが無理ならいっそ私が廃墟に行ってもいいけど、根本的に私が幽霊見えないことは変わらないんだよね……うう』
「ま、まあ工夫の余地はありそうですし、ちょっと考えてみます」
『2人とも肯定的な反応で嬉しい』『期待してるわ』『会って何するんだって問題もあるがw』『お風呂配信しよう』『うまいことやればいけそうな気もする』
『そうだね、私のほうでも霊視開眼できないか頑張ってみるよ!』
「そ、それはやめたほうが……いいや、頑張ってください」
『草』『俺も頑張るわ』『頑張ってどうにかなる問題なのかw』『やめとけ、他の悪霊もいるんやぞ』『霊視できるようになればミアちゃんが見えるかと思うと迷う』
そして、その後もいくつかマシュマロを読んで、ゲームタイムがやってくる。
本当に久しぶりにゲームができるとあって俺のテンションは爆上がりである。
思わず語る言葉にも力が入る。
「今日やるゲームはミラクルパニーメンです! なんと、ゲームが買えない私のために、真夜さんがプレゼントしてくれました! 本当にありがとうございます!」
『いやー、大したことないよ。でもそんなに喜んでもらえると嬉しいなあ』
『満面の笑顔で草』『良かったなあ』『子どもだからやっぱりゲーム好きなのか』『守りたいこの笑顔』『まゆまゆ良い仕事するじゃん』
「じゃあ早速やりますか! 真夜さん!」
『う、うん、めっちゃテンション上がったねミアミア』
なんせアプリ以外のゲームなんてやるのは久しぶりだ。
前世時代は好きでよくやっていたのだが、今世だと子どもなのもあってあまり買って貰えなかった。パソコンも自分専用のものは持ってなかったし、スマホで無料のアプリゲームはやっていたが、やはり買い切りとは色々と勝手が違う。
「このミラクルパニーメンは、協力しながら進めていく横スクロール型のゲームで、自キャラのウサギを操ってゴールを目指します。操作性が独特で難しく、思うように進めないもどかしさから、協力が必要なのに喧嘩が絶えないと聞いています。楽しみです」
『う、うん、がんばろうね』
『草』『早口www』『本当に好きなんやな』『これは楽しみ』『こんなテンション高いミアちゃん初めて見たwww』『まゆまゆが引くとは珍しいw』
そうして、俺たちはミラクルパニーメンを堪能した。
「真夜さん、真夜さん助けて!」
俺の自キャラが穴に落ちてしまう!?
『ま、待っててミアミア! 今行く……あ』
「真夜さああぁぁぁん!?」
真夜さんに蹴り込まれ、二人揃って真っ逆さまに落ちていく。
『草』『ナイスキック』『叫びが迫真すぎるww』『これがパニーメンだ』
「いいですか真夜さん、この剣山を越えるために、まずは私が真夜さんを蹴って飛ばします!」
『わかったよミアミア! お手柔らかにね! 優しくだよ! そーっと、そーっと、ってうひゃあああ!?』
剣山に頭から突っ込んでいく真夜さんウサギ。
『草』『知ってた』『まよまよ……いいやつだった』『ミアちゃんがそっと自害するの草』
『ミアミア、その人参は置いていこう? 今は取り敢えずクリアだけ目指そう?』
「で、でも、ウサギが人参を拾わないなんてそんなの有り得ませんよ……」
『そんなこと言ってて死んだら元も子も、ああ!?』
「にんじいいいいん!?」
人参を持ったまま穴にハマる俺。
助けに来る真夜さん。
そして再度二人で穴にハマり、なんとか壁蹴り連打で脱出を狙うものの、ジリジリと下がって行って、次第に力尽きた。
人参も落ちた。
『こうなると思ったわw』『欲張りミアちゃん』『人参抱き締めるミアちゃん想像したら可愛い』『まよまよの救出が下手すぎるw』
久しぶりの協力ゲームは予想以上に楽しくて、思わず熱中してしまった。
なんなら一生やれそうだったが、始まりがあれば終わりもある。
気付けば配信予定時間を過ぎていたため、俺たちはゲームを終了して最後の挨拶をすることにした。
「今日はすごく楽しかったです、ありがとうございました」
『こっちこそだよ! また遊ぼうね! 今度は私がそっちの枠に遊びに行くから!』
「はい、待ってますね」
『ええ話や』『次のコラボも見るぞー』『いかないで』『廃墟コラボよろしく』
『そんなわけで、来てくれたみんなもありがとねー! ばいまよー!』
「ありがとうございました、ばいみゃーです!」
『ばいまよー!』『ばいみゃー!』『予想外に相性良かった』『ミアちゃんにゲームをプレゼントしたい人生だった』
そして、配信が終了する。
ふう、何とか最後までやり切ることができた。
最初に変な違和感があったから心配してたけど、何事もなくて良かった。
『ミアちゃん今日はありがとね、楽しかったよ』
「こちらこそ、改めてありがとうございました。楽しかったです。その……できたらでいいんですが……えっと、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」
『!! もちろんだよ! できるもできないも全力でお願いしたいくらい! よろしくね!』
真夜さんとも一気に打ち解けた気がするし、コラボっていうのがどういうものなのかも体験できた。本当に得るものの多い時間だったと思う。
うん、本気でオフコラボについても模索してみていいかも知れない。
少なくとも、そんな風に考える程度には、この時までの俺は浮かれ切っていた。
問題が起こったのは、むしろ配信後だったのだ。
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