7 マシュマロを食べるぞ

 そんなこんなで一週間が経過した。

 もちろん配信は毎日続けている。


 視聴者さんとの交流を通じて素材や絵をいただいたことにより、チャンネルの見栄えは大分良くなってきたように思う。


 途中、ファンの名称と、ファンアートのタグを決めてほしいという要望があったので、アンケートを取った結果、ファンの名称はミア友、ファンアートタグはミアファンということになった。

 両方自分の名前が入っていて恥ずかしいが、アンケートで決まったのだから是非も無い。


 結果、ツミッターのほうでも少数ながら支援絵が上がり、嬉しくて足をバタバタさせてしまったのは内緒だ。


 配信時間は夕方ごろに固定したほうがいいというアドバイスも貰い、毎日十九時からのゴールデンタイムに始めることにした。

 本当は一日中やっていたいところだが、みんなにも生活があるからね、仕方ないね。


 まとめサイトの効果か、本物の幽霊らしいという評価が広がったためか、登録者数は順調に伸び、ついに1000の大台を突破。

 衝動に突き動かされるように始めた配信生活は、なんだかんだで順調だ。


「そんなわけで、今日は登録者1000人達成記念として、以前から募集していたマシュマロを食べます!」


『待ってた!』『千人おめでとー!』『もう千人かー』『ミアちゃんはワシが育てた』『マシュマロー!』『どこまで伸びるのか』


 マシュマロとは、いわゆる質問箱のことで、ミア友から送られてきた質問に俺が答える形になる。

 それをマシュマロを食べるというのだが。


 もし誰も送ってくれなかったらどうしようという心配は杞憂に終わり、予想より多くの質問をいただいた。

 嬉しいと共に、ホッと一安心だ。


 不安要素というと相変わらず部屋の隅にいる口だけさんだが……。

 結局何度追い出しても入ってきてしまうので、諦めて放置している。


 あれから垢BANどころか警告すらされなかったので、もう大丈夫だろうとは思っているのだが、次同じことがあった際もお咎めなしとは限らない。


 とにかく浮遊霊がやってきたら注意しなければと決意しつつ。

 

「じゃあマシュマロ読むよー! まず最初の質問! じゃん!」


【ミアちゃん、こんミアです! ミアちゃんに質問なのですが、ミアちゃんはきのこ派ですか、タケノコ派ですか? 気になって夜しか眠れません!】


『いきなりヤバいのきたな』『お、戦争か?』『これは荒れる』『きのこだよな?』『タケノコだろ』『じゃんじゃん』


「えー、これについてはですね、私幽霊なので食事できないんですよね。だから食べられるなら両方食べたいというか、どちらも懐かしいというか……」


『あっ』『あっ』『ライン超えたな』『これは許されない』『質問者さいてー』『悪気はなかったんや……許してクレメンス』『お前か』


「いやいや、全然気にしてないんで大丈夫だよ! そもそもこの質問選んだの私だしね。でもそんなわけで、派閥とかは無いかな? こんな答えでごめんね」


『反応に困る』『どちらを選んでも荒れてたからこれでいい』『食べる楽しみがないのは辛いなー』『良かった、異教徒のミアちゃんはいなかったんだね』『うまく誤魔化したな』


「び、微妙な雰囲気にしてごめん。じゃあ次行くよ! じゃん!」


【こんみゃー。ミアちゃんは口だけさんのことを本音ではどう思ってますか? 教えてください】


『じゃん可愛すぎて永久リピートしたい』『あーこれは』『確かに気になる』『いきなり殴られて殺されかけてるしな』『本人後ろにいるのにw』


「手のかかる犬かな」


『草』『草』『犬ってww』『犬www』『狂犬かよwww』『どこに犬要素がw』


「なんていうか、襲ってきたのは初日だけだし、なんだかんだで私が移動するとついてくるんだよね。時々フラッと居なくなるけどすぐ戻ってくるし、凶暴な野良犬を手懐けたみたいな感じあるかも」


 実際、配信中はともかくとして、生活面ではもうそれほど口だけさんを警戒していない自分がいる。


 曲がりなりにも一週間同じ家で暮らしてきたわけで。

 若干情が湧いているのも否定できない。


『そう聞くと可愛いなw』『本人どう思ってるんだろうw』『ついてくるってそれは……』『油断しないでね』


 やっぱり初登場時のインパクトが強いのか、心配するコメントもチラホラ見える。


「大丈夫、私強いからね! 襲いかかってきたら返り討ちだよ!」


 その場でシャドーボクシングをする。

 実体が無いから、拳が空を切る音をお届けできないのが残念だぜ!

 

『弱そう』『ポンしそうで怖い』『弱い(確信)』『完全にフラグ』


「なんでだよ! まあみんなは見る目ないからしょうがないね。じゃあ次のマシュマロ行くよ! ドン!」


【ミアちゃん、覚えているか、あの時のことを。実はミアちゃんと俺の出会いは一月前に遡る。当時、職を失い自暴自棄になっていた俺は、酒を飲み、路地裏で三十人相手に大立ち回りをしていた。多勢に無勢、なんとか二十九人までは倒したものの、最後の一人を前に力尽きてしまう。ボコボコにされる俺。全てを失い、立ち上がる気力も無くした俺の前に、そう君が現れたんだ。「大丈夫ですか?」そう言ってハンカチを差し出してくれた君は天使のようだった。懐かしいな。あれから二人の恋物語が始まったんだ。遊園地では怖がる君を無理にお化け屋敷に連れて行ってごめんよ。水族館ではイルカショーを前にご機嫌だったね。なのに、君はある日何も言わずに姿を消した。悲しかったよ、心の中心にポッカリ穴が空いたような気分だった。真に喪失を味わったのはあの時が初めてだったのだと今になって思う。でも、ようやく君に再会できた。で、そんなこんなで愛してる。結婚しよう!】


『クソマロww』『草』『長えよww』『最後雑www』『最後までちゃんと書けやww』


「ええと、これについては一ヶ月前だと私もう死んでるので、人違いではないかと」


『あっ』『バッサリw』『ミアちゃん地雷多すぎィ!』『クソマロにそんな真面目に答えんでもww』『ここまで書いて人違いは草』


「本当の彼女さんと幸せになってくださいね。じゃあ次! ドン!」


【ミアちゃんはいつも同じ服ですけど着替えないんですか?】


『あっ』『まずい』『実はちょっと思ってた』『まずいですよ!』『可愛いけど別のお洋服も見たいよね』『お前ら空気読め』


「これねー、多分死んだ後にお母さんが着せてくれたんだと思うけど……どうも脱ぐことはできるみたいなんだけど、そもそも幽霊が着れる服が他に無いというか……」


『ガタッ』『脱げるの!?』『興味深いですね』『お母さん呼び可愛い』『ちょっと脱いでみて』


「やだよ、変態! とにかく替えの服がないから着替えられないんだ、ごめんね!」


『ありがとうございます!』『ありがとうございます』『さすがに幽霊の服はないか』『残念』


「服があるなら喜んで着替えるんだけどね。さて、じゃあ次はーー」


 そんな感じで、順調にマシュマロを消化していく。

 質問には事前に目を通していたし、何を答えるのかあらかじめ想定していたから特に問題も起こらない。


 実のところ、中には微妙なものもあった。

 トリックを疑われるのは序の口で、霊現象解明への協力依頼とか、成仏しろだとか、自分の不運は全部お前のせいみたいなことを言ってきた人もいた。


 とはいえ、そんなもの馬鹿正直に表に出す気はない。

 ミア友のみんなには楽しい部分だけを見てほしい。

 配信を見て、喜んで貰えればそれだけで俺も幸せなんだ。

 

「じゃあ、今日はこの辺で! またねー!」


『おつー』『今日も可愛かった』『ミアちゃん情報増えて満足』『おつかれさまー』『いつもありがとう』


 うん、毎日楽しい!

 このまま何事もなく過ごせればいいんだけど。

 


 ○



【JS】幽霊配信者ミアちゃん応援スレpart2【口だけさん】


 123 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃん最高!


 124 視聴者の名無しさん ID:

 今日も可愛かったな


 125 視聴者の名無しさん ID:

 誰か幽霊用の服作れるやついないのかよ

 スク水頼むわ


 126 視聴者の名無しさん ID:

 僕は巫女服ちゃん!


 127 視聴者の名無しさん ID:

 お前ら少しは欲望を隠せよ


 128 視聴者の名無しさん ID:

 そんな職人いたら弟子入りするわ


 129 視聴者の名無しさん ID:

 しかしもう千人突破か

 こりゃ近い将来一万いくな


 130 視聴者の名無しさん ID:

 こんな伸びてないスレで一万とかwww

 底辺乙www同接いくらよww


 131 視聴者の名無しさん ID:

 スウジーが来たぞ

 ◯せ


 132 視聴者の名無しさん ID:

 伸びてないって、まだミアちゃんが配信初めて十日経ってないんだぞ

 個人としては優秀だろ


 133 視聴者の名無しさん ID:

 せっかく良い雰囲気だったのに

 ミアちゃんスレを荒らすのだけはやめてくれ


 134 視聴者の名無しさん ID:

 有名になればなるほど変なのも増えるからなあ


 135 視聴者の名無しさん ID:

 ふいんき←何故か変換できない


 136 視聴者の名無しさん ID:

 >>135

 できるぞ

 いつの時代からタイムスリップしてきたんだよ


 137 視聴者の名無しさん ID:

 老人きてんね


 138 視聴者の名無しさん ID:

 おいwww

 前スレで、ミアちゃんの映ってるディスプレイをハンディカメラで撮ってみたけど、やっぱりミアちゃん映らなかったって言ってたやついたじゃんwww

 試してみたらマジだったわwwww


 怖い

 泣きそう


 139 視聴者の名無しさん ID:

 >>136

 ま?


 140 視聴者の名無しさん ID:

 ガチ?

 スクショとかじゃなくて、モニター自体を撮ったんだよな?


 141 視聴者の名無しさん ID:

 俺も試したけどガチやぞ

 スマホとデジカメでそれぞれミアちゃん映ってるディスプレイを撮った

 結果ミアちゃんいない部屋しか撮れてない


 143 視聴者の名無しさん ID:

 まじのやつやん……


 144 視聴者の名無しさん ID:

 もう間違いないレベルまできてんね


 145 視聴者の名無しさん ID:

 鳥肌たった

 今夜寝れねえよ


 146 視聴者の名無しさん ID:

 俺たちが見てるミアちゃんはじゃあなんなん?


 147 視聴者の名無しさん ID:

 >>146

 幽霊だろ


 148 視聴者の名無しさん ID:

 幽霊確定


 149 視聴者の名無しさん ID:

 アーカイブ残らないから自分で録画しようと思ってソフト使ったけど不発

 仕方ないからスマホで画面ごと映そうとしてもミアちゃん映らない

 もうこれどうすればいいの


 150 視聴者の名無しさん ID:

 数分前ぼく「可愛ければ幽霊とかどうでもいいじゃん」

 今ぼく「怖いよお……おトイレいけない」


 151 視聴者の名無しさん ID:

 可愛いは正義


 152 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃん自身は全然いいんだよな

 ただ他の幽霊の存在も一気に確定しちゃうのがヤバい

 今まで曖昧だった境界が取り払われたことになる


 153 視聴者の名無しさん ID:

 細かいこと気にしすぎなんだよ

 怖いやつはトリックだと思っておけばいい


 154 視聴者の名無しさん ID:

 これ嘘ですよね?

 何か方法があるんでしょう?


 155 視聴者の名無しさん ID:

 どうやったら画面越しにカメラにすら映らないようにできるんだよ

 そんな方法があるなら教えてほしいわ


 156 視聴者の名無しさん ID:

 集団催眠とか?

 自分で言ってて説得力ないけど


 157 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃんは最初から幽霊だって言ってるんだよな

 優秀なミア友なら全てを受け入れてるから今更ビビったりはしないはず


 158 視聴者の名無しさん ID:

 ミア友レベル高え


 159 視聴者の名無しさん ID:

 つまりミアちゃんみたいな美少女の霊がそこらに溢れてるってこと?

 ちょっと散歩行ってくる


 160 視聴者の名無しさん ID:

 ポジティブ過ぎわろた


 161 視聴者の名無しさん ID:

 まともに話せる霊は見たことないってミアちゃんが言ってなかったか?


 162 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃんレベルの霊がたくさんいるならとっくに幽霊は世界的に認知されてるはず

 つまり普通は現世に干渉できる能力か意識が無い可能性が高い

 ミアちゃんが特別なだけで他の霊は大したことない


 163 視聴者の名無しさん ID:

 特別ったって病死しただけの女の子だろ?

 やっぱ仕掛けがあるんじゃないかね


 164 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃんですらヤバいって言ってる駅前の悪霊いるじゃん

 現実に影響ないとは思えんわ


 165 視聴者の名無しさん ID:

 むしろ特別なのはミアちゃんが映るカメラのほう説


 166 視聴者の名無しさん ID:

 正直幽霊云々はどうでもいい

 考察は他所でやってくれ


 167 視聴者の名無しさん ID:

 この騒ぎで霊能者が動き出してミアちゃん襲われたりしないか心配だわ


 168 視聴者の名無しさん ID:

 お前らwww

 幽霊なんているわけないだろww


 169 視聴者の名無しさん ID:

 >>167

 漫画の読みすぎ

 そんな幽霊退治の専門家みたいなやついないよ


 170 視聴者の名無しさん ID:

 わからんぞ

 幽霊がいるんだから専門家がいてもおかしくない


 171 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃん襲ったらミア友を敵に回すぞ


 172 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃんを襲うって聞くと興奮する


 173 視聴者の名無しさん ID:

 >>172

 わかる


 174 視聴者の名無しさん ID:

 通報しました


 175 視聴者の名無しさん ID:

 霊能者に襲われたミアちゃんを颯爽と助けたい

 それが縁で付き合うようになって休日デートとかして最後には幸せな結婚をしたい


 176 視聴者の名無しさん ID:

 幽霊なんていないよ

 いるなら殺人鬼とかみんな呪い殺されてるはず


 177 視聴者の名無しさん ID:

 ビビってるやつはミア友やめろ

 ミアちゃんには俺だけがいればいい


 178 視聴者の名無しさん ID:

 オカルト板が祭りになってるね


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る