【Extra ep.01-2】子供はいつしかヒーローになった
「僕はもう子供じゃない」
ドアの前を動かないあたしをノアは拗ねた様に見つめていた。
ノアは17歳にまで成長しているけれど、あたしにとってはまだまだ子供だわ。
「ケガをした理由を言えない悪い子に育てた覚えはないのだけど?」
「……リュシーは知らなくていい事だ」
「あら、部屋に結界を張っておく事がどれだけ簡単なのか知りたいのかしら?」
「……意地悪」
拗ねた様に小さく呟いた言葉をあたしは聞き逃さなかった。子供の気持ちはいつになっても解らないものね。別にあたしは外に出て何をしているのか知りたいだけで、それは親としての責任があるからなのだけれど。
あのケガは当たる場所が悪かったら動けなくなっていたもの。知らなくていい事にはならないわ。
「あのね、人間は死ぬの。あたしみたいな不老不死は滅多にいない。死ぬのがどういう事か……分からない訳ではないでしょ?」
「……昔の話はしないでほしいな」
「昔話じゃないわ。人は簡単に死ぬ生き物よ。あたしは沢山見て来たもの」
あたしの言葉にノアは気まずそうに俯いた。
ノアは小さい頃に路上で生きていた事を言っているのでしょうけれど、あたしがいなくなったらこの子は簡単に死んでしまう程に弱い。だからあたしが親として守らなければならない。
「だから……じゃないか……」
「何?」
「僕はリュシーと一緒に生きたいんだ。だから……」
「……そう。ちゃんと言えるじゃない」
俯いたまま不安げに呟いたノアはあたしの言葉に顔を上げた。
ノアの呟きで外で何をしていたのかも何となく察した。要するにノアは強くなろうとしているのでしょ。素直にあたしに教わる事を選ばないで、自分で戦い方を覚えようとしてモンスターとでも戦っていた。油断して大きなケガをしている様じゃまだ未熟すぎるわ。
「そこまで言うなら、分かったわ」
「じゃあ、外に出てもいいんだね!?」
「そうね……その前に準備をしましょ」
「準備……?」
あたしはドアの前から部屋に向かう。疑問に思いながらノアはついてきて、あたしはリュックサックを出すと必要な物を入れていく。
「ここに帰って来れるのはいつになるか分からないから、必要な物は持って行きなさい」
「……どういう事だい?」
「旅に出るのよ。随分長くこの家にいたから飽きてしまったの」
「……旅」
ノアはずっとこの家で過ごしてきたし、外に出ると言っても範囲は限られていたわ。その範囲で強くなるなんて無理な話。
不安そうな顔をしていたノアは自分のリュックサックを出すと真剣に考えて荷物を入れて行った。段々と笑顔になって行って、あたしはノアの楽しそうな姿を見て安心しながら荷造りをしていく。先に終えてドアの前でノアを待つ。
ノアはまだ真剣に悩んでいるけれど、何が必要なのかはあの子しか分からないから放っておく。必要がなくなったら手放す事も必要だし、それをあの子は知る必要がある。
少ししてパンパンになったリュックサックを背負ったノアがあたしの隣で嬉しそうに笑っていた。
泥だらけだった子供は今こんなに輝いているもの。きっとこの子は強くなる。そう思うと自然に笑みが浮かんでいた。
ドアを開けて一歩外に出ると天気が良くて、旅立ちには丁度いいわね。
「リュシー、僕には夢があるんだ」
「あら、立派じゃない」
「それが叶えられる様に、僕は進んで行くよ」
子供の成長は早いものね。
優しい瞳を向けるノアを見上げながら、もうこの子は子供じゃないのかもしれないなんて思いつつも、あたしにとってはずっと子供だとも思って。
隣に並んだままあたしたちは草原を歩き始める。目的地は装備品が眠るダンジョン。いくつかあるから長い旅になりそうね。
ノアの夢があたしのヒーローになるという事を知るのはまだ先だったのだけれど。
でもノアが本当にヒーローになれた事を知るのもまだ先の話。
-END-
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