自堕落な後輩…妹になる

白メイ

第1話 前日

「先輩?何ぼーっしてるんです?」


 廃部寸前のボランティア部の一室、後輩と一緒にいつもの如く村づくりゲームをしていると俺のスマホから普段鳴らないRINEの通知音が鳴った。


 俺のRINEには家族の父親と後輩の二人しか連絡先は入っていない。父親かなと思いメッセージを見るや俺は固まってしまい、後輩に声を掛けられてしまった。


 しばらく送られて来たメッセージを凝視し頭を働かせるが良くわからなかった。いや内容は分かる、わかるのだが理解が追い付いていないと言った方が正確だろうか。


 なぜなら、父親からのメッセージには、


『明日、家族が増える』


 そう書かれていたからだ。俺の家族は父親一人、母親は俺が生まれた時に亡くなったらしく記憶すらない。俺は17歳、今更家族と言うものが増えると言われても困惑でしかない。


 俺と父親の家に誰か知らない人が来るという事のなのだろうか。俺の性格上人と接するのが得意ではない。今こうやって後輩と二人でゲームをしている仲なのはあの事件から3年間先輩後輩だからという事だ。


 明日から家族が増えるからと親しくする人が増えることに対し喜べばいいのか、これから苦手なことに向き合わなければいけないのかという負の感情が交じり合っている。


 そんなことを考えていると、コントローラーを持っていた右手に何か柔らかいものが触れる感触がし、そちらの方へと視線を向けると心配そうに見つめる後輩の姿があった。


「先輩、大丈夫ですか?顔色悪いですけど…」

「ん、あー大丈夫だよ。これから大変そうだなって思って」


 俺がそういうと頭の上にはてなを浮かべ可愛らしく首を傾けている。はぁこういう俺を心配してくれる時は可愛いと思えるのに…普段の素行がな。


 俺の後輩は一言で言うとダメ人間だ。


 ボランティア部として3階の一番奥の部室を使わせてもらっているが一度も活動をしていないどころかゲームばかりしている。


 前までは部員も数人いたし真面目な部活だったが、この後輩が来てからと言うもの禁止されているお菓子は平気で持ってきて食べるのに後処理は他人任せだし、ゲームに集中していると話しかけるなと睨みつけて来る。


 挙句の果ては昼食時に俺が作ってきた自分の弁当を半分以上食われるわでいい印象を持ったことはない。


 だが見た目は素直に可愛いと言える。

 ショートヘアの黒髪にイルカの髪飾り(昔俺があげたやつ)。

 瞳は海を彷彿とさせる綺麗な蒼。

 身体は小柄で華奢な感じ、胸はない。

 顔も整っていて、見た目だけは学校でも人気の部類。

 まぁそれを差し引いても性格のダメさが目立っている。


 それを彼女は隠そうともしない、たまに告白をされたと噂になったが。


『そういうの要らないから、何か食べられるもの買ってきて』


 と告白してきた男子にお断りを入れ財布扱いしたとか、なんて性格の悪い奴なんだとは思うが、特段俺はこいつと腐れ縁みたいなものだら今更何も言わない。


 出会った当初は色々喧嘩になったが今では笑い話になっている。あと一年もすればこいつともお別れだからな、少し寂しい気持ちもあるがボッチを極めた俺からすれば痛くもかゆくもない。


「先輩早く続きしましょうよ!しないなら先輩のソシャゲの石全部溶かしますよ?」

「やめろそれは!俺が一年頑張って次来る推しキャライベント新規衣装版を完凸するために取っているんだからな」


「わかってますよ、だから敢えて言ったのに。そんなことより何かあったんです?」

「んー、まぁお前には言ってもいいか」


「ふっ私以外に友達いないのにその発言はどうかと…」

「いちいち棘があるなお前の発言は!まぁなんていうかさっき父さんから家族が増えるって言われて困惑してたんだよ」


「あらあら、先輩捨てられちゃうんですね(笑)」

「どうしたらそういった発想になるんだよ。ただ単に親が再婚したとかだろ」


「まぁそれが妥当ですよね。でも何で先輩はそんな顔してるんです?嬉しそうには見えないですよ」

「俺の性格上のが疲れるんだよ、それも一緒の家に暮らすって事は毎日顔を合わせないとだろ?」


 俺の発言に納得したのかあ~と声漏らしている事に少し腹が立ち殴りたくなる。もし殴り掛かったとしても空手をしていたという彼女には勝てる気がしないのだが。


「でもそうですよね、急に家族が増えるって言われても困るというか。私が同じ状況になったら相手のお腹を殴って従わせますね」

「はは、鬼畜だな。でもお前らしいよ」


 そんな後輩の冗談に適当に返しつつゲームを再開し始めた時、次の後輩の発言に驚いてしまった。


「それにしても、奇遇ですよね。私も明日同じことがあるんですよ。でいつか今住んでる家を出てに行くとか嫌ですよー」

「え?」


 もしかして…いや、ありえないよな。もしそうならどんな確率だよって話だし。あはは…ないない。俺はそんなあるわけもない事を考え一人笑ってしまった。


「?どうしたました?止まってますよ手」

「いや、さっきの話が俺たちの事だったりしないかなって?ありえないけどな」


 俺は笑いながら、さっき考えていた事を後輩に冗談っぽく話すと、後輩もゲームの手を止めこちらに振り向き真面目な顔で俺に質問してきた。


「……先輩って苗字なんでしたっけ?」

「ん?早瀬はやせだな…どうかしたか?」


「い、いや先輩の仮説あってるかもです…」

「……」


 俺と後輩の間しばらく無言の時間が訪れる。どれだけ時間が経ったのかわからないが実際の時間としては長くはないが体感としては10分ほどで、動かなくなったゲームの画面と止まってしまった後輩の顔を見るだけ。


 そして先に口を開いたのは後輩の成実なるみだった。























「先輩、私と恋人になりませんか」

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