第33話 小春さんとあかね
合宿三日目の練習を終えた夕方、私たち三期生は食堂に集められていた。
「それでは!皆さんにカレーを作ってもらいます!」
「か、かれー?」
ここまで合宿中のご飯はスタッフさんたちが作ってくれていたのだけど、どうやら今夜の夜ご飯は私たちが作るようだった。
葵ちゃんが言ってたのはこれか。
「三期生全員でひとつのものを作る、という経験も大事ですから。それでは話し合って買い出し班と調理班を決めてください。あっ、ネットで作り方調べるのは禁止です」
館山さんが言い終えると、私たちは円になって話し合いを始める。
「じゃあ、私料理したことあるよーって人?ちなみに私はぜんぜんなーい!」
しほしほが率先して進行役を務める。年上とはいえ行動力がすごい。
「あるわよ」
「美瞳さん料理すごそ〜、私は全然、かな?」
「意外!しーちゃん料理出来ないんだ……」
しーちゃん!?椎菜ちゃんそんな呼び方されてたの……??
津田いろはさん。椎菜ちゃんと同じグループだった子だ。この三日間で仲良くなったみたいだ。
「んー?そういういろはは?」
「私は出来るよ〜、よく弟に作ってあげてたもん」
「へー、すごいね!」
そんな感じで話し合いは進んでいき、
調理班…私、美瞳さん、齋藤さん、津田さん、幸音
買い出し班…椎菜ちゃん、しほしほ、杏紗、葵ちゃん
という振り分けになった。
私は人並みに料理ができるので調理班になった。殺し屋の時は自炊してたからね……
「じゃあ、買い出し班が戻ってくるまで下準備、しちゃいましょうか」
エプロン姿になった私達は既に準備されてある野菜の前に立つ。どうやらリーダーは美瞳さんがやるみたいだ。
「わたし、ピーラー使ったことないから包丁で切るね?」
津田あかねさん。栗色のミディアムヘアーで見た目も性格もふんわりとしたい印象を受ける。本当かキャラ作りかは知らないけど天然なイメージ。
「私はじゃがいもを切らせてもらいますね?」
齋藤小春さん。ミディアムボブのサラサラした黒髪で小柄な子だ。大人しいイメージだけど、幸音みたいな、自信が無いから大人しい、という訳じゃなくて凛としていて、冷静なイメージだ。和服が似合いそう。
あまり話したことの無い二人と話せるいい機会……と思ったのだけど、
「痛っ」
いきなりハプニングが起きた。
「幸音大丈夫!?」
悲鳴をあげた幸音の元へ駆け寄ると、人差し指から血が出ていた。十中八九包丁で切ってしまったのだろう。
「まったく、おっちょこちょいなんですから、ほら、水で洗いますよ。染みたらごめんなさいね」
「あ、ありがとう小春さん……」
「はい、これ絆創膏」
齋藤さんは何事もないかのようにポケットから猫の模様がプリントされた絆創膏を取り出して傷口に貼る。
手際がよすぎる……!
「気をつけてくださいね?指とはいえアイドルに傷は厳禁ですよ?」
「う、うん!ありがと…!」
齋藤さんカッコよすぎる……
どこか幸音の目もキラキラしていた。これは惚れちゃったかな。
「じゃあ仕切り直して野菜切りましょうか……ってあれ?」
キッチンを見ると、そこには既に切られて準備を終えた野菜が並んでいた。
「あ、終わったわよ」
「怪我は小春に任せとけばなんとかなるって分かってたからね〜、私たちは野菜切ってたんだよ」
美瞳さんと津田さんが野菜を切り終えたようだ。手際いい……というか、あれ?私だけ何もしてなくない??
「ふふ、さすがですね」
「ただいまー!」
丁度買出し班が戻ってきた。ここから挽回しなくちゃ……!
□□□
「かんせーい!」
そして特に見せ場もなく、カレーが完成した。小春さんの手際が良すぎて手持ち無沙汰になっていた。多分小春さんめちゃくちゃ料理上手。正直かなり暇だったので、カレーは小春さんと幸音、美瞳さんに任せて私とあかねちゃんは余りものでサラダを作っていた。
「こんなところかな?お疲れ〜、ゆずっち!」
「あかねちゃんもお疲れ様〜さすがに量多くて疲れたね」
「スタッフさんも入れて30人分だもんね〜」
「でも小春さんホントすごいね……」
「あの子、有名な旅館のオーナーの娘なんだって、和倉温泉?とか言ってた気が」
なるほど……道理で。それにしても和倉温泉ね。日本一のおもてなしをするホテルが和倉温泉にあった気がするけど……まさかね。
「でも、ゆずっちと仲良く話せる機会があって良かったよ」
「うん、私も。折角Forceに入ったからには皆と仲良くなりたかったから」
お互い愛称で呼ぶようになったし、一緒に料理を作ったのがいい経験になったのは間違いないだろう。
「でも、私がこんなに心を許せるのはゆずっちだけだよ」
「え……?」
思わずあかねちゃんを見ると、真っ赤な顔になっていて、瞳はうるんでいた。
「なんちってー、もっともっとこれから仲良くなろうね?」
こ、小悪魔……!
な、何だこの子は。あざとい……!
「じゃあ夜ご飯も完成しましたしご飯にしましょうか」
そんな私たちのやり取りを知る由もない美瞳さんが私たちにご飯を食べるよう促す。
何はともあれ色々あったからお腹はペコペコだ。でもきっとそれはみんなも一緒だ。
「「いただきまーす!」」
元気のいい声が食堂に響き渡った。
「余りものでナンも作ったのでご飯が苦手な方はぜひ」
小春さんがしれっととんでもないことを言っていた。いつのまに、しかも余りものでナンって……ホントに小春さんとんでもない……
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