第20話 二次オーディション③
「山月さん。質問だけどさ、今何のオーディションか分かってる?」
「あ、アイドルのオーディションです」
面接官の男の圧を感じながらもしっかりと目を見て答える。
「だよなぁ、それでうちのエースのモノマネをするとはなかなか度胸があるな」
しかし、男の表情は厳しい言葉に対して明るい気がする。あれ……?
「唯一無二のアイドルを見つけるためのオーディション。モノマネ大会では無いんだよね」
この目はもしかして。
――叱責ではなく期待の目。
「は、はい、分かっています」
「分かってるよな。なら出てけ。これ以上の審査は無駄だわ」
「……え?」
驚きの声をあげたのは私ではなく佐野さんだった。
「ちょっと、春風さん、それはダメじゃないですか?」
さすがに見ていられなくなったのか男の隣の女性も口を挟む。
「自己アピールでモノマネ。しかもウチのエースのモノマネだ。審査不能だろ、これ」
お手上げだと言わんばかりに呆れた顔だった。
「審査不能……確かにそうですけど」
「え、今の『演技』を見て即不合格なんですか?それはおかしくないですか?」
そんな面接官の態度に臆することなく佐野さんが立ち上がった。
ちょ、待って待って!
そんなことをしたら佐野まで巻き添えになっちゃう。
「佐野さん……私のことはいいから黙ってて」
「黙らないよ!黙ってられないよ!」
佐野さんは止まらなかった。もうこれ以上は取り返しがつかないのに。アイドルになるの、長年の夢だったんじゃないの?
「ほぉ、なんだ佐野くん。面接官に歯向かうのか?」
「そうです。彼女ほどの人材を逃すのがForceにとって大きな損失だって言ってるんです」
面接官に対して一歩も引かない彼女はもう落ちることを覚悟しているようにも見えた。
やっぱりこの子は強い。強いけど、それは危ない強さだ。
「っち、友情ごっこは他所でやれよ」
先程まで嫌味を言っていた女の一人がボソッとつぶやく。面接官の前でそんなことをつぶやける努力だけはすごい。
「お、今そこの。なんて言った?」
「あ、いえ。すいません!」
「いや、そうだよな。友情ごっこは他所でやれよ、だよな。お前ら二人とも仲良くここから出てけ」
女は面接官から賛同を得られたことにホッとした表情をしていた。
そして面接官は……あ。
この表情は。
「わかりました!!!こんな理不尽なアイドルグループ、私からも願い下げです!!」
一方佐野さんは怒りで理性を忘れてるみたいだ。
「ほら、行くよ!」
「……え、ちょっと」
佐野さんは私の言うことも全く聞かずに私の手を握って部屋を出た。
「――ほんっと信じらんない!Forceには憧れてたのに!こんな形で裏切られるなんて」
部屋から出た後も佐野さんは怒鳴っていた。おしとやかな雰囲気だったがこんな一面もあるようだ。
そして、自分のためにここまで怒ってくれたことにどこか嬉しさを感じていた。
でもそれ以上に申し訳なさも感じた。
「帰ろ帰ろ、柚乃ちゃん!スタバくらいなら奢るからさ!」
「いや、折角なら合格発表まで待とうよ」
人生初のスタバにも興味はあったけど、今それをするのは勿体ない。
「……え?」
今回の面接試験の合否は他の審査とは違い、試験後三十分以内に放送で知らされることになっていた。
「百パー不合格だよ??」
「いやもしかしたら、があるかも」
――もしかしたら、では無い。確実に受かっている自信が私にはあった。
面接官が私達を落とす気ならばあの場面であんな表情は出ない。これは色んな人と接してきたからこそわかる感覚だった。
佐野さんは気が付かなかったようだけど私たちが退出する時、あの男の面接官の目は笑っていた。それも嘲笑ではなく期待のこもった笑み。
「自分の不合格を聞くために待つの嫌だよ?」
「じゃあさ、一度でも面接官の人達私たちが不合格だって言ってた?」
「――そんなの言ってるに……あれ?」
「そ。私たち部屋を出てけとか審査不能とか言われたけど一度も不合格とは言われてないよね」
審査不能=不合格というわけじゃない。
「確かに……でも、合格だとしてもあれがこのグループの方針なら私はやっぱり入りたくない」
「きっとカマをかけてただけだよ。それに簡単に夢を諦めないで」
私のために怒ってくれた彼女に私も勇気を出して一本踏み出してみよう。
「あと怒ってくれてありがと、椎菜ちゃん」
「!」
「……ふふ、わかった。柚乃ちゃん」
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