第二部

00.プロローグ


 窓から差し込んだ夕陽が僕らを真っ赤に染めている。床の間を背にして正座する僕と、僕を囲んで座る着物美女たちの姿を。


「あの~~、どうして僕はここに呼ばれたんでしょう?」

「ええ。私たち、根岸さんに確認したいことがありまして」

「確認と仰いますと?」

「それは自分の胸に訊いてみたらどうですか?」

「は、はい……?」


 なんでそんなに刺々しい口調なんですか?

 しかも自分の胸にって、まるで悪いことをしたみたいじゃないですか?


 そんなことを言われると不安になるけれど思い当たることはない。

 普段通りに学校生活を送っているし、生徒会の活動にも問題はないはず。

 なにか不手際があったのなら教えてほしいけれど質問できる雰囲気でもない。戸惑う僕をよそに彼女たちは無言で茶を点てつづけており、室内には茶筅(ちゃせん)の振られる音だけがいやに響き渡っていた。



 やがて、正面の人が茶碗を差し出してきた。


「ど、どうも。いただきます……」

「根岸さん。九条さんとは最近いかがなんですか?」


 建学祭のこともあって僕たちが付き合っているのは多くの学生に知られていた。もちろん梨香さんと同じ茶道部である彼女たちも。


「梨香さんとは真剣にお付き合いさせていただいております」と、相手のご両親への挨拶みたいに答えると「九条さんに秘密にしていることがあるんじゃないですか?」と、懐からスマホを取り出して一枚の写真を見せられたのだった。


「こ、これって……!」


 そこには僕と、銀髪の美少女が腕を組んでいる姿が写っていた。


「この人と先週末にお買い物していたそうですね。とても親密そうだったと聞いてますけど?」

「違うんです、これは――!」

「――なにが違うのよ、どう見ても浮気でしょ!」

「それともあんたに外人の家族でもいるわけ?」

「真面目な人だと思ってたのに、二股なんて最っ低!」


 弁解を遮って憤怒の形相でぐいぐいと寄ってくる彼女たち。

 恋人とは別の女子と買い物をしたのは事実だし、こんな写真があれば誤解されるのも無理はない。

 突然の出来事だったとはいえ、周囲の目を気にしなかった自分の責任だ。


 でも、僕は浮気なんてしていない!

 僕が好きなのは梨香さんだけなんです!


 その想いを伝えるものの、証拠があるので簡単に信じてくれない。

 彼女たちだって梨香さんを想う親友だ。浮気の嫌疑がかかった恋人(ぼく)を前に憤慨するのは当然だし、ここで容疑が固まれば別れをすすめることだってありえる。だけど、正直に写真のことを説明すれば‘彼女’との約束を破ることになってしまう。いくら疑惑を晴らす為とはいえ、そんなことはできなかった。


「黙ってないで、なにか言いなさいよ! この二股少尉!」


 またしても異名を授けられてしまったけど、そんな名で呼ばれようものなら明日から登校すらできなくなってしまう。

 いったいなんでこんなことになったんだろう。

 話はそう。

 すべてあの日から始まったんだ。

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