策略-7

 高島さくらは、港区の撮影スタジオで冬物の服を着て撮影を行っていた。

「良いよ! さくらちゃん。可愛いよ!!」カメラマンがさくらをおだてて気分を上げさせる。だが、さくらはそんなおだては神経を逆なでるものだった。

 自身が人一倍容姿に優れているのは子供の時から知っている。だからこそ当たり前の事を言われているのは苦痛でしかなかった。

「じゃあ、衣装を替えまぁ~す」

 女性スタッフが衣装チェンジの合図を出すと、スタッフ達がさくらの元に駆け寄る。

「さくらちゃん、お疲れぇ~ 衣装室に着替え用意しているから」

「はい。ありがとうございます」笑顔で答えるさくらは、言われなくても分かってんだよ。このクソババアと心の中で呟く。

「じゃ、着替えてきます」

 さくらはスタジオを出て衣装室との間に置いてあるゴミ箱を無言で蹴飛ばす。

 撮影前からさくらの中で、何かモヤモヤする感情が渦巻いていた。さくら自身、その原因が分からないのでイラついていた。

 次の衣装に着替え終えたさくらはスタジオに戻る。

「では、撮影再開しまぁ~す」

 撮影が終わったのは、それから二時間後のことであった。

「今日の仕事は終わり?」メイクさんがさくらのメイクを落としながら尋ねる。

「はい、そうです」

「じゃあ、この後、ご飯に行かない?」

 突然の誘いにどうしようか考えるさくら。

「さくらちゃん、サッカー興味ない?」

「いえ、あまり」と答えるさくらだったが、人気取りの為にワールドカップが開催されるとその大会で活躍する選手を応援する投稿をSNSで行っていた。

「そう。それでね、J2の選手がパーティーを開くんだって。それで私にお誘いが来てね。さくらちゃんもどうかなって?」

「パーティーですかぁ~」どうしようかなという顔をするさくら。

「さくらちゃんが来てくれると、パーティーも盛り上がるんだけどな」

 このメイクが言うパーティーというのは名目上で、その真意は合コンである。

 ここで、週刊誌とかにスクープされるとめんどくさいことになるので断るという選択肢を取ることにした。

「すいません。お断りします。帰って大学のレポートを書かないと行けないので」

「そ。残念」

 そこから、会話もなくメイクを落としたさくらは帰宅するのだった。

 事務所が用意したタクシーが迎えに来るので、到着を待っているとスタジオに一台の車が入ってきてさくらの前に停車した。

 助手席の窓が開き、「どぉ~も、熱海でぇ~す。お迎えに上がりましたぁ~」と長四郎が吞気な声でさくらに声を掛ける。

「探偵さん?」何故、ここに居るのか分からないさくらは戸惑う。

「ま、乗ってください。ストーカーの正体が掴めたかもしれません」

「は、はい」

 さくらは後部座席に乗ると車は走り出した。

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