策略-3

 さくらが所属する芸能事務所は、六本木ヒルズの中にあった。

「六本木ヒルズにあるんだぁ~」燐は浮足立つ声を出す。

「ホントに付いて来たよ」

「グチグチうるさい!」

 長四郎の足の甲を踵で思いっきり踏みつける。

「ガッデム!!!」長四郎はロビーで大声を出さないようにするのだが、あまりの痛みに耐えきれず大きな声を出してしまう。

「声が大きい!!」燐はすぐ様注意する。

「誰のせいだよ」

「さぁ? 誰だろ?」

「このガキィ~」痛みを堪えながら立ち上がると受付で事務所に居るさくらの担当マネージャーにアポイントメントがあると伝える。

 問題なく中に入ることができ、高島さくらの担当マネージャーの鍋島なべしま 優愛ゆあが二人を応対する。

「さくらの担当をしております。鍋島です」そう言いながら、長四郎と燐に名刺を渡す。

「どうも、熱海探偵事務所の熱海です」

 長四郎もまた優愛に名刺を渡す。

 そして、優愛は不思議そうに燐を見るので「あ、彼女はアルバイトです。勿論、守秘義務は守るように教育してありますのでご安心を」長四郎はすかさず燐の説明をする。

「今時は、探偵のアルバイトなんてあるんですね」と感心する優愛に対して、そんなもんねーよと心の中で呟く長四郎であった。

「それで、さくらのストーカーの件ですよね?」優愛が本題を切り出す。

「そうです。警察への相談を行わなかったと聞いたのですが」

「その話は事実です。ですが、誤解しないでください。彼女の話をもとに我々でも調査したんです。その結果、その様な事実はないと判断したんです」

「そうですか。では、これは?」

 長四郎はさくらから預かったストーカーが撮影した写真を優愛に見せる。

「この写真。どこで?」

「彼女から渡されました」

「さくらから? どうして、私には何も言わなかったんだろう?」

 その様子からして本当に何も知らないと踏んだ燐に対して、長四郎は懐疑の念を持つような顔で優愛の反応を聞いている。

「あの、いつからさくらさんはストーカーに狙われていると相談されたんですか?」燐が質問する。

「一ヶ月前だったかなと」

「一ヶ月前・・・・・・・」燐は一人うんうんと頷いて納得する様子を見せる。

「調査をされたと言いますが、どの様な事を?」

「それは・・・・・・」優愛は少し考えると、語りだした。

「探偵の方に調査を」

「探偵ですか。失礼ですが、どこの探偵事務所ですか」

「それについてはお答え出来かねます」

「そうですか。分かりました」

 ここでは大した情報が得られないと思った長四郎は退散する事にし、椅子から立ち上がる。

「えっ! もう帰るの?」こんな所で切り上げることに驚く燐。

「ああ、帰る。ありがとうございました」

 長四郎は燐を連れて事務所を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る