長屋-16
歌舞伎町にあるスナック・ANOTOKIが派手実の勤務先であった。
古びた雑居ビルの二階に店は入っていた。独特な臭いがする階段を上がり、これまた年季の入ったビルの戸を開ける長四郎。
「いらっしゃ~い」
酒やけした声で挨拶する推定年齢・60歳のママ。
「どうも」長四郎はそう言いながら、ママの真向かいのカウンター席に座る。
「何、飲む」
「あ、じゃあビールを」
「はい」
長四郎が言うや否や瓶ビールと冷えたグラスが出た。
「早っ」
「そうでもしなきゃ生き残れないよ」
「そうですか」
そこから暫くの間、沈黙が流れる。
「お兄さん、どこから来たの?」
「あ、五反田です」
「五反田だったら、ここまで来なくても遊ぶ場所、いっぱいあるでしょ」
「そんな事は・・・・・・・ありますね」
「正直ね」
「じゃあ、正直者なんで聞きますね。有原派手実さんの事について」
「派手実? ああ、今日は来てないよ」
「知ってます。あの人は今、拘置所に居ますから」
ママは飲んでいたハイボールを噴き出してしまう。
「捕まったの?」
「はい。本人は無実を主張していますけどね」
「そう、無実をね。ここ最近、怪しかったんだけど」
「怪しい?」
「うん。なんか、大金が転がり込んでくるとか何とか。ドラマに出てくるキャラかと思ったよ」
「大金が転がり込んでくるですか。でしたら、この男性がこの店に来ませんでしたか?」
長四郎は零太郎の顔写真を見せた。
「来てないけど。うん? ちょっと待ってよ」ママは老眼鏡を掛けて再度、零太郎の顔を確認する。
「こんなに老けてはなかったかなぁ~」
「老けてはいなかった。派手実さんは、この店に勤めて何年ぐらいですか?」
「え~っと、三年? ぐらいかな。シングルマザーで金が要るからって言うしね。その時は今より客が多かったから、丁度、良かったんだよ」
「そうでしたか。じゃあ、こっちの男はどうでしょう?」
次に見せたのは、二太郎の顔写真だった。
「ああっ! この男!! この男だよ!!!」
「この男でしたか。いつ訪ねて来ました?」
「派手実が大金が転がり込んでくるって言い始めたタイミングだったかな。あれが確かぁ~ 三か月前ぐらいだったかな。でも、この男が来た証拠は証明できるよ」
「本当ですか!?」
「ちょっと、待っててね」
ママは店の奥に引っ込んでいき、何かを持って戻ってきた。
「これ、彼の忘れ物なの」
そう言って、カウンターテーブルに置いたのは学生証であった。
「おいおい、これは」
「そうでしょう。私もびっくりした。ま、お酒は飲んでなかったけど」
「これ、預からせてもらっても? 本人に返しておくんで」
「そうしてくれる。それと、学生身分でこんな所に来るなってね」
「きちんと伝えます。ご馳走様でした」
長四郎はビール代を置き、店を後にするのであった。
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