始動-10

 トイレに入って行ってから五分も経たないうちに、長四郎は涙をぬぐい燐に首根っこを掴まれながらトイレから出てきた。

「ぐすっ、ぐすっ」

「泣いてんじゃないわよ」

 燐にそう言われても、泣く事を辞めない長四郎。

「大丈夫ですか・・・・・・」

 遠山は憐れんだ顔で長四郎の身を案じる。

「大丈夫じゃありません・・・・・・」

「そうですか」

「そんな事はどうでもよくて、事件の話をしましょ」

 燐は遠山の方を向くと、胸倉を掴み「てめえ、よくも私を売りやがったな!!!」と怒鳴り散らす。

「そんな事していませんよ」

「ああ!?」

 燐の怒りは収まることをしらず、遠山の身体を揺さぶり続け、遠山は長四郎に助けを求める。かくいう長四郎はとっくに泣き止んでおり、素知らぬ顔で遠山を見ていた。

「み、見てないで。助けてくださいっ!」

「ああ」

 長四郎は遠山から燐を引き剝がす。

「何度もすいません。ラモちゃん。どぉどぉ」

「離せっ」

「ほい」

 燐の指示に従い腕から離すと燐は地面に尻餅をつく。

「痛ったぁ~ なんで、急に離すの?」

「離せって言ってみたり、離すなって言ってみたり忙しい奴だな」

「すいません。こんな事する為に、僕は残っているわけじゃないんですけど」

 遠山は不機嫌そうに長四郎に言う。

「これは申し訳ない」長四郎は謝罪し「遠山さん、被害者との出会いをお聞きしたいんですけど」と質問した。

「え? 出会いですか?」

「ストーカーになるって事は、きっかけがありますよね?」

「それは・・・・・・え~っと」

「怪しい」そう言ったのは燐であった。

「ラモちゃん。そう思っても心の中にとどめておくの」

 長四郎のその一言に、遠山はムッとした表情を見せる。

「気を悪くしてしまいましたね。それより、出会いを答えて頂けませんか?」

「合コンです」

「合コンでしたか。それは被害者が大学生時代に行われたものですよね?」

「はい」長四郎の質問に頷いて答える遠山の顔は、次に発する言葉を必死に考える顔であった。

「それから、ストーカー行為が始まったんですか?」

「はい、そうです」

「ふむふむ」顎に手を当てニヤニヤする長四郎。

 それに対して燐は不満そうな顔で長四郎の横で突っ立っているだけ。

「もう良いですか? 僕がお話出来る事は、ありませんよ」

「そんな事は無いと思いますけどね」

 長四郎のその一言に「えっ」と言って驚いて見せる遠山。

 遠山の中では、この質問だけ答えたら帰れるものだと思っていた。それなのにまだ帰れそうにない事に少し苛立ちを覚え始めていた。

「お次に聞きたいことは、遠山さんがトイレから出てきたタイミングで死体が発見されたということです」

「それは偶然でしょう」

「そうかもしれませんね。因みにその事を警察には話しましたか?」

「は、話しましたよ。当然じゃないですか」

 そう答える遠山の顔は引きつっていた。

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