始動-6

 長四郎と一川警部が最初に向かったのは、事件現場の女子トイレであった。

「ここに被害者が倒れてました」

 長四郎は被害者の姿形が模られたテープを指差して、説明する。

「ほぉ~」とだけ返事をして、現場をキョロキョロと見回す一川警部。

「それで、この女子高生が第一発見者です」長四郎は事情聴取を受けている燐を指差して教える。

「女子高生。あの子の連れは?」

「居ませんよ。あの女子高生、名前何て言ったかな? まぁ、なんにせよ、人の仕事を邪魔する厄介なガキンチョですよ」

「長さん、邪魔されたの?」

「危うく対象にバレそうになりましたからね」

「対象って事は、探偵をしとうと?」

「警察なら知っているでしょ」

「あ、バレた?」

「全く。それで対象っていうのがあの男です」

 長四郎はさり気なく遠山の方を指差して一川警部に伝える。

「浮気してると?」

 事情聴取を受けている遠山をガッツリ見ながら、長四郎に質問する。

「そうみたいですけど。あんまり、まじまじと見ないでください。調査している事がバレるので。バレたら依頼人が危険な目に合うかもしれないので」

「これは失敬」

 一川警部は視線を長四郎に移す。

「依頼人が危険に会うって言ってたけど、なんか危ない人なの?」

「DVしているかもしんないです」

「そら、大問題やね」

「ええ、大問題なんですよ。依頼人は頑なに否定してましたけど」

「ふ~ん」

「そんな事より、被害者の事を知りたいんですけど」

「ああ、そうやね。少し待っといて」

「ふぅ~」

 息を吐き、気合いを入れ直す長四郎の元に燐が来た。

「あのハゲ刑事は、知り合い?」

「女子高生、じゃない。確かぁ~ラモ。ラモちゃん、どうしたの?」

「私の名前は燐。羅猛燐。ラモちゃんっていう名前じゃないんだけど」

「あだ名だろ。気にするな」

 後頭部をポリポリと掻きながら、事件現場に視線を移す。

「う~ん」

 長四郎は死体発見当時の事を思い出しながら、事件の手掛かりを探す。

「ねぇ、犯人分かりそう?」

「分かりそうって。分かるわけないでしょ」

「ダメじゃん」

「そうですね。ダメですねぇ~」

「真面目にやってんの?」

「あのね、ラモちゃん。工藤新一じゃないのよ」

「工藤新一?」

「江戸川コナンだよ」

「ああ。あれね」

「あれね。は、ねぇだろ」

「そんな事より、犯人見つけようよ」

「犯人はそこに居るだろう」

「え?」

 燐は声がした方を向くと、南志見が立っていた。

「羅猛燐さん。現場の状況から考えて犯人だとしか考えられないんですよ」

「そんな・・・・・・」

 長四郎に助けを求めると、長四郎は素知らぬ顔で南志見の発言に耳を傾けるだけであった。

「助けなさいよ!!」

 長四郎は答えることなく肩をすくめて、南志見に連行するように目で促すのだった。

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