第16話 楽しい夕食

 家に帰ると、小屋はもう閉まっていて、一階に明かりが灯っていた。


 中に入ると、パロルはキッチンで料理をしていた。


「パロル、ただいま!」


 私がそう言うと、パロルは顔を上げて、「おかえりなさい!」と言って、現在進行系で切っている人参に視線を戻した。


 洗面所に行き、手を洗ってうがいをした。リビングに行くと、一発で分かる良い香りが鼻孔をかすった。


「これは……カレーですか?」

「あったり〜! ナスと人参とひき肉のカレーだよ!」


 ひき肉は大豆で作ったひき肉かな。絶対にそうだ。


「いいですね〜! 美味しそう!」

「でしょ! でしょ! じゃあ、そこに座って待ってて!」


 私は言われた通り席につく。でも、何か手伝おうかなと思ったが、彼女には彼女なりのペースがあるから止めとこうと思い、待つ事にした。


 でも、キッチンを見た所、まだ料理は完成しそうになかったので、ポケットからペンとかみを取り出して、ちょっとした物語を書いてみた。


 主人公はトマトちゃん。彼女はニンジン兄の事が好きで、片想いをしているが、彼には近所のナス姉の事が好き――というストーリーをちょこっとだけ書いた。


「へぇ、何に書いてるの?」

「うひゃっ!」


 いきなりパロルが覗き込むように声をかけてきたので、変な声が出てしまった。


 それがツボにハマったのか、料理を持ったまま笑っていた。


「あの……パロル? 大丈夫ですか?」


 とりあえず料理がこぼれないか心配なので声をかけると、彼女は「うん、大丈夫だよ。ありがと!」とニヤけた顔で料理を置いた。


 さて、ナスとニンジンの大豆ミートが入ったカレーはどんな感じなのだろう。


 チラッとパロルが席に座るのを待つと、お互い見つめ合って、手を合わせて、「いただきます」といった。


 スプーンを手に持って、円に切られたナスとカレーとライスをいっぺんに口に入れる。


 おぉ、思ったよりも甘口。だけど、スプーンが止まらない。


「どう? 美味しい?」


 パロルがモグモグしながら聞く。私は口いっぱいに入れてしまったので、たくさん頷いて『美味しい』アピールをした。


 どうやら伝わったみたいで、嬉しそうな顔をしていた。

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