第14話 美味しい。心が暖まる

 確か役所が発行している町の暮らし方が書かれている本で、こんな記述があった。


『自分がお腹が空いた時、誰かが料理を提供してくれたら、それ相応のお礼をしましょう。言葉でもいいですし、物でも構いません』


 あれを見た時、『なんだこれ』と思ったけど、今になって分かる。


 この世界には貨幣との通貨がないんだ。代わりに『言葉』『物』がそれの代わりとなるんだ。


 だったら、私がすべき事は――。


「あ、あの……えっと」


 緊張しているせいか、声が震えている。だけど、落ち着け、私。もう、あいつはいない。


 深呼吸してから、口を開いた。


「あ、ありがとうございます!」


 大きな声言うと、彼女はニコッと微笑んで、「ハイッ! また来てくださいね!」と言った。


 恐る恐るその場から離れてみる。が、店員が後から追いかけて、「すみません。まだ代金、支払っていませんよね?」と言われる事はなかった。


(本当にこの世界は不思議)


 そう思いながら外に出て、座れる席を探した。


 すぐにベンチがあったので腰を降ろした。お昼時だからか、この施設を出入りしたりする住民達がチラホラいた。


 この町の家族構成とかも気になるが、手元から漂う小麦の甘い香りが勝り、冷めないうちに食べる事にした。


「いただきます」


 小さく挨拶してから一口食べた。


 美味しい。生地のフワフワと優しい甘さが良い。


 チーズも乳製品よりあっさりしていて、生地の甘さを邪魔していない。これは何個でも食べれるやつだ。


 もう一回言っておかわり貰おうかな――と思った。けど、夕食の分も残しておくため、これぐらいに留めておくことにした。


 あっという間に食べ終わると、すぐに図書館にこもって、本を読んだ。


 今日の気分はホッコリしたかったので、住民のエッセイを読む事にした。

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