芸能事務所の新人マネージャーが底辺アイドルの長話にとことん付き合わされる件

丸子稔

第1話 初めまして日暮優香です

「初めまして、わたしの名前は日暮優香ひぐらしゆうかです」


「あなたが昨日入ったマネージャーさんですね。名前はなんて言うんですか?」


「遠藤? 遠藤さんて言うんですね。ちなみに、下の名前は? えっ、たもつ? ああ、保健室の保と書いて、たもつって読むんですね。分かりました。じゃあ、覚えておきますね」 


「ちなみに遠藤さんは、苗字で呼ばれるのと下の名前で呼ばれるのとでは、どちらがいいですか?」


「えっ、普通に苗字でいい? あはは。普通ってなんですか。遠藤さんて、見かけによらず、面白い人なんですね」


「ところで、剣道さんっていくつなんですか?」


「えっ、剣道じゃなくて遠藤? あはは。やだなあ、遠藤さん。ちょっとボケただけなのに、そんなに全力で訂正しないでくださいよ」


「じゃあ、改めて訊きますけど、いくつなんですか?」


「えっ、二十二歳? やだ、わたしと三つしか変わらないじゃないですか。ということは、もしかしてまだ大学出たばかりとか?」


「やっぱりそうなんですね。でも、社会経験もなくていきなり芸能事務所のマネージャーになるなんて、遠藤さんてチャレンジャーですね」


「えっ、好きでなったわけじゃない? 他の会社が全部落ちたから、仕方なくここに就職したんですか? あはは。遠藤さん、それってある意味ラッキーですよ」


「えっ、なんでラッキーかですって? わたしが言うのもなんですけど、芸能事務所のマネージャーって、大変な仕事なんですよ。特にわたしたちみたいな女性アイドルグループのマネージャーは」


「どう大変かというと……あっ、これは言わない方がいいですね。仕事をする前から、やる気を無くしたら困りますもんね」


「とにかく、この仕事を最初に経験しておくと、その後どんな仕事をしても楽に感じますよ。これは今まで辞めていった歴代のマネージャーが皆そう言ってるので間違いありません」


「ちなみに遠藤さんは、わたしたちのこと知ってますか?」


「えっ、アイドルに興味がないから知らないですって? まあ、でもその方が、変な先入観がなくていいかもしれませんね」


「ところで、遠藤さんは小さい頃どんな仕事に就きたかったんですか?」


「へえー。プロ野球の選手だったんですね。ちなみにポジションは?」


「えっ、ピッチャーとバッターの二刀流? あはは。それ、絶対嘘ですよね? だって、その頃はまだ二刀流の選手なんていなかったし」


「遠藤さんて、見かけによらずユーモアがありますね。もしかしたらこの仕事、向いてるかもしれませんよ」


「あれ? 遠藤さん、なんか顔が赤くなったような気がするんですけど」


「もしかして、褒められて照れちゃったとか」


「やだあ! 遠藤さんて、可愛い!」


「あれ? どうしたんですか、今度はそんな怖い顔して」


「もしかして、からかわれてると思ったんですか?」


「やだなあ。わたしがそんなことするわけないじゃないですか。わたしはただ思ったことを口にしただけですよ」


「分かりました。じゃあ、もう遠藤さんに向かって、可愛いなんて言いません」


「でも、遠藤さんが、わたしに可愛いって言うのは、全然OKですからね」


「じゃあ、そろそろこの辺で、他のメンバーのことを軽く紹介しておきますね」


「えっ、それは後で一人ずつ面接するから、しなくていいですって?」


「いえいえ。予備知識があった方が絶対いいですって。ちなみに、事務所はわたしのこと、どんな風に言ってました?」


「えっ、グループの中では一番大人しくて、目立たないですって。……やっぱり、わたしって、そう思われてたんだ」


「まあ、それも無理ないですね。わたし、昔から前に出るタイプじゃなかったし、人が喋ってるのを押しのけてまで、自分が喋ろうとは思わないんですよね」


「まあ、そういうところが、事務所にとっては不満なんでしょうね。でも、持って生まれた性格だから、どうしようもないですよね」


「あっ、ごめんなさい。なんかグチっぽくなっちゃいましたね。じゃあ改めて、メンバーの紹介をしますね」


「まずは、さっちゃんこと河野こうのさつき。彼女はグループのリーダーで、年齢は最年長の二十一歳です」


「さっちゃんは、とにかくリーダー気質があって、いつもわたしたちをうまくまとめてくれます」


「でも、時にはそれが行き過ぎることもあって、他のメンバーの子としょっちゅう揉めています」


「あと、プライドも異常に高くて、自分が失敗しても絶対認めようとしません。歴代のマネージャーも、いつもそれで苦労していました。でも、わたしはそんなさっちゃんが大好きです」


「あれ? どうしたんですか、そんな暗い顔して。もしかして、さっちゃんと会うのが怖くなったとか?」


「大丈夫ですよ。あんまりいじめないでって、さっちゃんに言っておきますから」


「じゃあ、さっちゃんの紹介はこのくらいにして、次はりえぴょんこと、佐々木理恵ささきりえの紹介をしますね」









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