第18話 祝勝会と。

「さあ! ミニカ特製超スペシャル煮込みができたですよ! 今日はお野菜とお肉に加えて、エビ、イカ、貝、お魚、キノコ! とにかくいつもよりいろいろぶちこんでみたです! さっき味見をしたらばっちりのできだったですから、みんなた〜んと召しあがれ、ですぅっ!」


 王都旧市ゼロ街区の俺の家のリビング。


 ドン! とあふれだしそうなくらいに具材がぎっちりと詰まった大鍋。それと上質な小麦の焼きたてパンがテーブルにおかれ、俺とアルケミの竜退治を記念する祝勝会は始まった。


「ん〜! おいしい〜! ミニカちゃんのスペシャル煮込みは何度食べても超最高だよ〜!」


「はいっす! いろいろ入れた具材の出汁がめっちゃ出てるっすね! ミニカちゃんと交代で何時間もかけて煮込んだ甲斐があったっす!」


 もう何度めになるだろうか。俺とミニカとサビー、それからアルケミ。もうすっかりおなじみになった気がするメンバーで食卓を囲む。


 俺は、器に並々と盛られたミニカ特製の煮込みをどこか感慨深いような気持ちで口に運んでいた。


「これだけスープがおいしいってことは〜、ん〜! やっぱり! みんなみんな! パンを浸して食べると、激ウマだよ〜!」


「うわ! 本当っす! スープが染み染みでいくらでも入るっすぅ!」


「うわぁっ! おいしいれすぅっ! さっすがアルおねえちゃん! ですぅっ!」


 ――いや、アルケミ? もうあんた、本当にマジでめちゃくちゃなじんでんな? あ、パンうまい。



「それにしてもすごいっすね! カノンのアニキ! まさか身体強化すらできないゼロが竜退治の勇者にまでなるなんて! 死んだ母ちゃんが寝る前に聞かせてくれた物語の英雄たちと同じだなんて……いや、もうマジですごすぎないっすか!?」


「いや、退治したっていっても出会い頭に〈魔砲〉一発ぶっぱなしただけだし、別に俺の実力じゃ……」


「いやいや! それで竜を退治できちゃうんすから、やっぱりめちゃくちゃすごいっすよ!」


「それもこれもぜんぶアルおねえちゃんのおかげなのです……! ミニカはもうアルおねえちゃんのことがだ〜い好きなのですっ! ね、ね? アルおねえちゃん! 今日もぜひミニカの部屋でいっしょにお泊まりしていってほしいのです……!」


「あ……。え、と……ご、ごめんね。ミニカちゃん。あたし、今日はちょっと帰らないといけなくて……」


「アルケミ……?」


 ――その、一瞬陰を帯びたような横顔が妙に引っかかった。


「え〜! そうなのです〜? じゃあじゃあ、おにいちゃんに家まで送ってもらうといいですよ! ほら、おにいちゃん!」


「あ、おい……! ミニカ……!」


「あはは……! いいよいいよ。カノンはちゃんとミニカちゃんのそばにいてあげて。じゃあ、また明日! 今日はすごく楽しかったよ! ありがとう!」


 そう言って笑顔で手を振ると、錬金魔道技師のコートを羽織ってアルケミは外へと出ていった。



「むー! おに……」


「サビー」


「はい。なんっすか?」


「頼んで、いいか?」


「はい! もちろんっすよ! カノンのアニキ! ミニカちゃんのことは、オイラが命にかけても守るっす!」


「助かる。遅くなるかもしれないから、ふたりとも先に寝ててくれ!」


 そうして上着をひっつかむと、入口の扉をバン! と開けて、バタバタと俺は出ていった。


「むー……。いざ本当に妹ばなれのときがくると、やっぱりさみしいものなのですね……。カノンおにいちゃん。アルおねえちゃんのこと、おねがいします、です!」


 もちろん、開け放たれたままの扉から背をじっと見つめるそんな妹の声は、すでに外を駆けだしはじめた俺の耳には、ほとんどとどいていなかった。


「アルケミ……! 俺がいくらにぶいっていっても、さすがに何か隠してることくらいはわかるんだよ……! これでもあんたのパートナーだからな……!」


 ――月明かりの下、新市街区へとつづく道を俺は力の限り走った。

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