第11話 記憶
空を見上げる休日。
紅茶と一緒に過ごす窓際は騒がしい二人も大人に見える。
静かなシーンも大事な二人の物語。
4月6日(土)朝
今日は一部の部活を除いて学園はお休み。
私はいつも通りの時間に起きちゃったんだけどゆきはまだ寝てる。
美奈「ふぁ~あ…」
まだ眠いなぁ…。入学してから毎日濃かったからね、もう一か月位経った感覚だよ。
シフォサのポスターは今日には完成するんだけど、流石に皆休もうって事になったから印刷部に週明け取りに行く事にした。
ん~~!!
伸びっ!
朝は紅茶。
お湯を沸かして紅茶を淹れた。
窓際に椅子を移動し朝の陽射しを浴びながらティータイム。
広がる自然の奥には空黄町(からきちょう)の中心部が見える。
マンションは高台に建っていて景色に不自由する事は無い。
…
…
…
鳥が鳴いている。
木々の擦れる音。
時々聞こえる車の音。
何時ぶりだろう、自然を見ながら紅茶を飲んだのは。
天界にも地球の木々を模した景色はあるけれど。
地球の空。
自然。
風。
不思議な、何だか懐かしい感覚。
…
…
…
風を感じる。
…
…
雲が太陽を隠す。
一瞬視界が暗くなる。
…
昔は太陽に手をかざすと手が透けた、気がする。
…
…
試してみたけど今は出来なかった。
ゆき「………」
ゆき「おはよ美奈っ!」
美奈「ゆき…!?起こしちゃった?ゴメン」
ゆき「紅茶の良い香りがして…。ゆきにも淹れてほしいな」
美奈「うんっ」
ゆき「ふふっ」
ゆきがおしとやかに微笑んでいる。
ゆき「嬉しくてさ」
美奈「うん」
ゆき「こうやって美奈と地球で学生出来るのがほんとに」
ゆきも椅子を窓際に寄せて外を眺めている。
ゆき「だからめっちゃ楽しんでるよ。心の底から笑」
美奈「紅茶。ミルクで良いよね?」
ゆき「うん!」
一度ゆきと夢について話した事がある。
前世の記憶かもしれないって。天使になる前の。
一時期お互い同じ様な夢を見ていた。
ミーナ「ユキちゃーん一緒学校行こ~」
ユキ「まって~すぐ行く~」
幼い私達は隣同士の家。いつも一緒だった。
でも…。
ミーナ「え…ユキちゃんが引っ越し…?」
ミーナ「そんなのおかしいよお!今日も遊ぶ約束したんだもん…」
寝て起きたらユキの家は無かった。跡形も無く。
お母さんもお父さんも先生も近所の人も、何か隠してた。
幼くたっておかしい事くらい分かる。
そこでいつも夢は途切れている。
ユキも同じ夢を見ていた。
そして家を出る所で夢は途切れているって。
美奈「ゆき…」
ゆき「あの夢でも」
ゆき「こうやって二人で空を眺めてた」
ゆき「お母さんが淹れてくれた紅茶を持って公園で」
あれは絵空事の夢じゃ無いと思う。
美奈「うん」
ゆき「腐れ縁笑」
夢が続いたから天界の色々な天使に相談したけど、結局原因も真相も分からなかった。
そもそも前世の記憶が残っている事は良くある事だから、簡単に流されても仕方ないんだよね。
美奈「ただ悲しかった記憶だけは鮮明に覚えてる」
夢はずっと同じ場面をループしていた。そして最後は例の別れのシーン。
ゆき「天界で仲良くなれたのも偶然じゃ無いってその時思ったよ」
…
…
…
ゆき「………」
美奈「ゆき…?」
ゆき「すぅ……すぅ……」
はしゃぎ過ぎた子供みたい笑
でも私も少し眠くなってきた。
暖かい。
次起きたらまた、いつもの騒がしい日常だから。
子供の様に全力で。
だからお日様…。もう少しだけ私達を大人でいさせてください。
続く
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