田舎でスローライフを満喫するはずの俺氏。初対面のメスガキな女子小学生からいきなりざぁこ♡と罵られ下僕に認定される!? ~絶対にわからせてやる!!と同居したら返り討ちにあった件~

kazuchi

【別荘に住む条件は年下メスガキ美少女と相部屋だと!! ※ただしお前の実の姉】

「……この場所はなんて空気が美味うまいんだ!! 仕事を辞めて引っ越してきて本当に良かったな」


 俺、若木佑介わかぎゆうすけは深呼吸した、どこまでも続く真っ青な空に白い雲が駆けていく。これまでの都会暮らしではスマホの画面ばかり覗き込んでいたな。空を見上げるのは何年ぶりだろうか……。


「んっ!! ふうっ……」


 喉からこぼれ落ちる言葉。運転で疲れた身体の中の空気を入れ替えるように息を吐く。別荘の建つ区画も今はオフシーズンだからか俺以外に誰も見あたらない。


「夏休みには八ヶ岳の別荘は利用者も多いって聞いたけど、この辺りは密集していなくて静かなのは嬉しいな。騒がしいのは都会だけで沢山だから」


 ……思わず笑みがこぼれてしまう。今までの暮らしでこんなに独り言をしゃべらなかったはずだ。遠足にむかう小学生のノリで気分が高揚こうようしているに違いない。ポケットをまさぐり鍵の感触を確かめる。


「鍵を受け取ったときに親父は変なことを言っていたな。あの別荘は無料タダでお前に貸してやる。って」


 親父め、いわくつき物件を押し付けたんじゃないのか? 家族で長期休みに別荘を訪れるのは多かったけど、以来俺は足を踏み入れていない。親父が別荘を仕事の作業場にしているのは知っていた。昨今の情勢でリモートワークも普及して信州の山奥にいても都会と変わらぬ作業が可能だ。


「もったいつけやがって。着いてからのお愉しみで、お前には素敵なサプライズを用意しておいた、って何だよ。 俺は親父のサプライズなんて別にいらねえし」


 親父との茶番劇的なやりとりを考えていると俺は先程の不愉快な出来事を連鎖で思い出してしまった。


「あの女の子は見事なほどのクソガキだったな。ああメスガキといったほうが相応ふさわしいか……」



 *******



 食材や日用品の買い出しに寄ったスーパーマーケットで第一村人発見!! として初めて遭遇した女の子だった。店の駐車場に停められた移動販売の車。その脇の赤いベンチにその女の子は腰かけていた。気にも留めず通り過ぎようとした俺は突然声を掛けられた。


「……ねえ、あんたって昔より強くなった?」


「俺に声を掛けてるの、お嬢ちゃん?」


 すらりと伸びた背丈の感じから小学校高学年の女の子だろうか? 派手な英字のプリント柄が入ったTシャツ、細かいドット柄のミニスカートから突き出た足は良く日焼けしている。スカートとお揃いのソックスが小学生にしては形の良いふくらはぎを包んでいた。


「……はあっ!? 突っ立っているのはあんたしかいないでしょ。きゃははは!! ダメじゃん弱そう。かなりザコキャラっぽい」


「ザコキャラって!? 人違いじゃないの。初めてこの場所に来たんだけど。それにいきなりあんた呼ばわりはひどいな、お兄さんはお嬢ちゃんより年上なんだからさ」


「ふうん年上かぁ。あんたも偉くなったもんね。どの口が私にむかって生意気を言うのかな……」


 やれやれと肩をすくめる女の子。その拍子にツインテールに結んだ髪に付けたのカタチをした桜色の髪飾りがきらりと日差しに反射した。


 この子は何を意味不明なことばかり口走っているんだ!?


「まあいいや。時間はあるから。昔みたいに下僕げぼくとしての英才教育をその身体に仕込んでやるから覚悟しなさい!!」


「げ、下僕って。お嬢ちゃん、その意味を分かって言ってんの!?」 


「しまった。いきなりグイグイ行き過ぎちゃったか!? この場は一時退散するね!!」


 大き目なサイズのTシャツ。襟元からのぞく健康的に日焼けした首筋に残るスクール水着の跡。その白い肌の部分を所在なげになぞる彼女の指先を俺はあっけにとられながら見つめるしかなかった。


「そこの移動販売のピザ。めっちゃ美味しいから。ミックス富士がオススメ。きっと同居人も喜ぶと思うからお土産に買っていってあげて……」


「待てよ!! 俺に声を掛けた理由わけをまだ聞いていない」


 その場を走り去る小柄な背中に声を掛けようとした瞬間、神隠しにあったかのように女の子の姿はこつ然と俺の視界から消えていた。


「あの女の子は何なんだ、俺は変な夢でも見ていたとか? 異常をきたすほどブラック企業の激務で疲れきっていたというのか!!」

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